第56話 コミカライズ32話 公開予告SS


 この日ユンボは自らのユルトで、エイマから特例ということで借り受けた、ディアスとエルダンの会談の資料を前にして、腕を組み瞑目し、うんうんと声を上げながら悩んでいた。


 コミックのためにと借りたそれには、様々な機密事項が書いてあり、エイマから決して外に漏らすなときつく注意を受けており……それについてをどうしたものかと頭を悩ませているようだ。


 描かない、という事自体はそう難しいことではない。

 やろうと思えば簡単にやれることではあるのだが……そうなると会談で何が話し合われたのかが何も分からず、何もわからないまま話が進んでしまうことになり……話としての面白さが失われてしまう可能性がある。


 ユンボとしてはそうなることは避けたいのだが、その内容の重要さから機密にしなければならないという、エイマの言葉もよく理解出来るし……そう言いながらも資料を貸してくれたエイマに報いたい気持ちもある。


 一体自分はどうしたら良いのか、どうすべきなのか……そう悩みながらユンボはうんうんと声を上げ……上げながら無意識的に手がペンを握る。


 ペンを握りインク壺に漬け、スラスラスラと機密部分をコミックとして描いていって……その全てを暴露する形で、原稿を描いていく。


 そう、これは無意識のことなのだ。

 本能がそうさせているのであって、自分は悪くないのだ。


 結果としてちょっとした問題が発生してしまうかもしれないけども、無意識のことなので自分にはどうしようもないのだ。


 なんて言い訳をつらつらと考えながらユンボは、懸命に手を動かしていく。


 そんなことを考えている時点で無意識でも何でもないのだが、一度手を動かし始めてしまったならもう止まることはなく……止める気などさらさら無く、ユンボは機密事項の全てを描き上げてしまう。


 描き上げたものを確認し、誤字など修正すべきところを修正し、更に何度か手を入れて完成度を高めて……最早無意識という言い訳すらしなくなり、完成したそれを本にしてくれと、隣領からの使い、ゲラント率いる鳩人族部隊に託す。


 そう、自分だけが悪い訳ではないのだ、本作りに関わる隣領の人達だって悪いのだ。


 自分はただ仕事をしただけ、期待に応えただけ……無罪になるべき人間なのだ。


 なんてことを考えながらユンボは荷造りをし、借りた資料をきれいにまとめ、突入してきたエイマがすぐに見つけられるようにテーブルの上に置いて……そうしてユルトを出て、しばらくの間、姿を隠そうと旅に出ようとする。


 そうした動きはエイマにバレていて、読まれていて、鷹人族のサーヒィが上空からしっかりと監視していたのだが、ユンボはそれに気付くことなく草原へと向かって歩いていって……そうして後日、エイマ率いる犬人族部隊に捕縛されてしまうのだった。

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