第55話 コミカライズ31話 公開予告SS
この日ユンボは、コミックの取材のために広場にあるセナイとアイハンの畑へと足を運んでいた。
セナイとアイハンが思いついたままに、手当り次第に種を植えたといった感じのその畑はなんともごちゃついていて……それでいてどの作物も元気に育っていて、春の今は緑に溢れた空間となっている。
そんな畑には常に犬人族の見張りが立っていて……ユンボはもちろん、ディアスや村人であっても無断で畑の中に入ったり、作物に触れたりすることは許されておらず、ある種の聖域のような扱いをされていた。
今日はあくまで取材なので中に入る必要も、作物に触れる必要もなし。
持ち歩きやすいようにと板に貼り付けた紙束とペンを構えたユンボは……見張りの鋭い視線を一身に受けながら畑の光景を紙束に描いていく。
そうやってどれだけの時間が流れたか……紙束に隙間なく絵を描いたユンボが満足げに頷いていると、セナイとアイハンが駆けてきて……ナルバントに作ってもらったらしい鉄製のじょうろをそれぞれ手に持って、ちょろちょろと水を畑に振りまき始める。
そうしながらセナイとアイハンは魔力も畑に振りまいていて……そうすることで畑の作物は瑞々しい葉を活き活きと揺らし、茎を力強く伸ばし、咲いている花からは甘く爽やかな香りが周囲に放たれる。
それを見て流石にこれはコミックに書けないかなと、ユンボが頭をかいていると……水やりを終えたセナイとアイハンが来た時と同じ勢いでどこかへと駆けていって……同時に見張り達があえてというか、露骨にというか、畑から目を逸らし、どこか遠くを見るような目をし始める。
うん? 見張り達は一体何をしているんだ?
そんなことを考えてユンボは見張り達に疑念のこもった視線を送るが、見張り達はそれからも目を逸らし、知らない振りをし……見張り達のそんな態度に首を傾げたユンボは畑へと視線を戻す。
すると畑の中央にある、イルク村の作物の中でも特別な扱いを受けているサンジーバニーの……長く伸びた茎がふるふると震え始める。
風も吹いていないのに、地震という訳でもないのに、はっきりと見て取れるほどに震えて、そうして茎の一部がぷっくりと膨らんで……そこにポンッと一瞬で葉が生い茂る。
ポン、ポポン、ポポンポン。
そんな音が聞こえてくるような、思わず幻聴を耳にしてしまうようなそんな光景が広がり……冷や汗をぐっしょりとかいたユンボは、これは一体何事なんだ? との視線を送る。
だが見張りは視線を逸らし、自分は何も知らない何も見てない、何も関わっていないとの態度を取り続け……そんな見張り達の態度を受けてユンボは、うん、と力強く頷く。
そうして自分もまた見ていない振りをすることに決めたユンボは、紙束をしっかりと抱え軽やかな足取りになって、鼻歌を歌ったりしながら……尚も大量の冷や汗をかいたまま、自分のユルトへと戻っていくのだった。
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