第54話 コミカライズ6巻 発売記念SS


 今回も今回とてユンボが描いたコミックが本になり、それを見たアルナーがユンボをお追いかけ回し……すっかり恒例となったその光景を、広場でぼんやりと眺めているとゾルグが鬼人族の村の方からやってきて、挨拶もそこそこに本を手にとって、にやりと笑う。


「おー、こんな感じになるんだなぁ。

 いや、前に出たやつを何度か見てはいたんだが……やっぱあれだな、自分が表紙になると感慨深いもんだな」


 笑ったかと思ったらそんなことを言ってペラペラとページをめくり……少しの間、夢中になって読みふけり……それなりの時間が経ってから満足したのか本を閉じて、駆け回るアルナーを一瞥してから、こちらへと視線を戻し声をかけてくる。


「……ところで、なんだってアルナーはあんな風に怒ってるんだ?

 本の内容も、そんな怒るようなもんじゃなかったし、この本の売上が村の収入にもなってるんだろ?

 なら怒るよりも喜ぶことだと思うんだが……」


 そんなゾルグに対し私は、無言で本が詰まっている荷箱の、隅の方に押し込まれていた絵画を引っ張り出す。


 それは本の宣伝のために書かれたもので、アルナーやセナイとアイハンの姿が描かれていて……それを見たゾルグは渋面となって天を見上げ、しばらくの間頭を悩ませる。


「……妹と姪っ子達に何してくれるんだとも思うが……それでこの本が売れるなら良いんじゃねぇかと思うし……何とも言えねぇなぁ、これ……」


 そうしてから腹の奥底から吐き出すような声を出し……尚も渋面となるゾルグに私は頭を掻きながら言葉を返す。


「まぁ、アルナーもそこら辺のことは理解しているのだろう。

 ああして追い回してはいるが、捕まえたところでそこまで酷いことをする訳でもないし、捕まえられなかったとしても夕方には諦めて、以降は何も言わないからなぁ。

 理解はしていて、宣伝効果についても納得はしているのだが、それでも収まらない気持ちがある……という感じなのだろうなぁ。

 ……あれはあれで一つのコミュニケーションというか、仲良く喧嘩している、というアルナーとユンボなりの気持ちの交わし方なのかもしれないな」


 私のそんな言葉にゾルグは「なるほどなぁ」と呟いてから、もう一度空を見上げる。


 空を見上げて頷いて……そうして何かを決意したらしいゾルグは、腕を回し腰を回し、その場で飛び跳ねて体を温めてから、ユンボの方へと向かって駆け出し……アルナーと連携しながら逃げ回るユンボを追い詰めていくのだった。

 

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