第53話 コミカライズ30話 公開予告SS


 この日ユンボのユルトには、隣領からの来客、鳩人族の諜報隊長ゲラントの姿があった。


 以前このゲラントに半ば無理矢理な勧誘を受けていたユンボは、その姿を見るなり毛を逆立てて警戒心を高めていたが……今日のゲラントはユンボの協力者として、情報提供者として来訪しており……コミック制作のための貴重な情報源でもあるからと渋々ユルトの中に招き入れた形だ。


「―――そしてこの時帝国ではこういうことがあったようでして、ああ、いや、我輩もあくまで聞いただけの話なのですが、まぁ前後の情報の質を鑑みるにまず間違いないかと」


 そうしてゲラントは、ユンボのユルトの中にある木箱の上にちょこんと座り、そんな風に貴重な……貴重過ぎてユンボが少し困ってしまうような情報をつらつらと語り続けている。


「え? こんな情報を漏らしてしまって大丈夫なのか? ですって?

 えぇえぇ、全く問題ありませんとも、情報というのは鮮度が命、今更こんなにも鮮度が落ちた情報を漏らしたとしても全く問題ありません。

 これがコミックという形で世に出たとしても同様に問題なく、帝国の連中がこれを目にしたとしても、良い警告になるだけでしょうな」


 そんなことを言われてユンボが物騒な話をするなぁと渋い顔をしていると、ゲラントは「クルッホホホ」と笑い、言葉を続ける。


「まぁまぁ、本当にこれは漏らしてしまっても問題ない情報ですのでご安心を。

 先生のコミックは我が領としても守っておきたい大事な産業となっておりますので、下手な真似はさせませんとも。

 もし危険な部分に踏み込みそうな時は、事前に注意喚起をさせていただきますとも、はい」


 そんなゲラントの言葉にユンボは、それはそれで何だかなぁという顔をするが、ゲラントは構うことなく「クルッホホホホ」と笑い、そうして更にあれこれと危険そうな情報を喋り続ける。


 それらは本当に、ユンボから見る限りは危険そうなものばかりだったのだが……それでもユンボは最終的に、コミックが面白くなるならそれで良いかと、それらの情報を使っての作業を進めていく。


「―――そう言えば話は変わるのですが、この時忙しくしすぎたからか、エルダン様と奥方様達の間でちょっとした喧嘩がございましてな。

 ああ、いや、これに関しては本当に外に漏らしたらまずい情報で……って、ユンボ殿!? 嬉々として書こうとしないでください!?

 あ、その顔、以前の仕返しをしようとかそんなことを考えてはおりませんか!?

 こ、これに関しましては本当にご勘弁を! 我輩ちょっと口が滑っただけですのでー!」


 作業を進めていく中でゲラントがそんなことを言い出し……ユンボはにやけてペンを動かしていく。


 実際はそんな内容書く気は全くなかったのだが、ゲラントの言う通りちょっとした復讐の機会であるのも事実。


 そうしてユンボはしばらくの間、ペンを動かしにやけ顔を作り出し、ゲラントをからかい続けるのだった。

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