第51話 コミカライズ28話 公開予告SS


「はぁ、なるほど、これがコミックか」


 家具によりかかり、足を投げ出して座り……雑に紙束を持ってそんな声を上げたのはアルナーの兄、ゾルグだった。


 自分がコミックに描かれていると聞いてやってきて、ユンボのユルトの中に居座って、そうしてコミックを読ませろと駄々をこねて。


 ユンボとしては当人であるゾルグには見せたくなかった内容だったのだが、そこまでされてはもう見せるしかなく……そうして見せた結果は、思っていたよりも悪くないものだった。


 憤る訳でもなく、暴れる訳でもなく……ただ静かに紙束に描かれたコミックを読みふけっている。


「なんだよ、その顔。

 こんな内容を描かれたからって俺が怒るとでも思ったのか?

 ……ま、いい加減俺も大人になったっていうか、この頃の酷さを自覚出来ているからな……。

 俺を馬鹿にするためにわざわざ描いたって訳でもないんだろうし、この程度のことに文句を言ったりはしないさ」


 すると紙束に視線を落としたままのゾルグがそんな事を言ってきて……ユンボはいつ顔を見られたのかと驚きながらも、そういうことであればと安堵のため息を吐き出す。


「しかし、絵をこうして物語にするってのは面白いアイデアだよな。

 俺も絵を描いたことはあるが……こういう形は思いつかなかったよ」


 更にそんなことを言ってゾルグは手にしていた紙束をユンボに返してきて……それと同時にまだ何も描かれていない白紙を手に取り、ユンボが握っていたペンを掠め取り、さらさらとその白紙に絵を描いていく。


「……おー……紙に絵を描くとこんな感じなのか。

 このペンってのも悪くないな……確か北の山の風景はこんな感じで……ああ、今の季節だとここらへんが……」


 と、そんなことを言いながら慣れたような手付きでペンを動かし……その異様なまでに手慣れている様が気になったユンボは、ゾルグの横脇へと回り込んで、どんな絵が描かれているのかと覗き込む。


 するとそこには北の山の風景をそのまま切り取ったような……湖に写し込んだような絵が描かれていて、尋常ではない出来の絵が完成しつつあって、それを見たユンボは度肝を抜かれてしまう。


「ん? 俺の絵が気になるのか?

 まぁ、俺は目が良いからな、見たものをそのまま描くくらいはなんでもないんだよ」


 驚いているユンボを見てかゾルグがそんなことを言ってきて……そんなゾルグを凝視したユンボは……その腕前逃してなるものかを、いきり立って襲いかかる。


「な、何だお前!? なんでお前が暴れるんだよ!? 立場が逆だろ!?」


 そんな声をゾルグが上げるがユンボは言葉を返さずにただただゾルグを捕まえるために……ゾルグがユルトから逃げ出すその時まで、暴れに暴れ続けるのだった。

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