第49話 書籍6巻発売記念SS『蒼穹の狩人 サーヒィ』


 サーヒィと見回りに出る時は、サーヒィのための止まり木杖を持ち歩くことにしている。


 常に空を飛んでいるというのはそれなりに疲れることなのだそうで、だからといって誰かの腕や肩に捕まりっぱなしというのも気疲れしてしまうらしく、それらを解決してくれる止まり木杖はサーヒィにとっても私達にとっても欠かせない道具という訳だ。


 止まり木杖にとまっている間、サーヒィはずっと首を動かしながら周囲や前方をその目でもって見やっている。


 鷹の目、なんて言葉があるが、サーヒィの視力はそんな言葉では言い表せないくらいに凄いもので、視線を遮る障害物がなければ何処までも、どんな小さなものでも見ることが出来るんじゃないかと思う程だ。


 それ程の視力があるからこそ、杖の上から見張ってくれるだけでも十分なのだが、それでもサーヒィは時たま翼を広げて空に飛び上がり……天空という圧倒的な高所からの見張りをしてくれる。


 狐や蛇、鼠に虫、そうした草原の生き物一匹一匹の動きを完全に捉え、何が何処にいるのかを一瞬で把握し、そうして杖に戻ってきたなら、あっちを歩けこっちを歩けと安全な道程を指示してくれる。


 そうやって空を飛べること、目が良いこと、この二つだけでもありがたいのだが……更にサーヒィは狩りを行うことを得意としていて、狩人としても凄まじい成果を上げることに成功している。


 アルナーがふとした瞬間に、狐の毛皮が欲しいと言えばその日のうちにとってくるし、マヤ婆さんが生きた蛇が欲しいと言えば、生かしたまま捕まえてくるし、イルク村の周囲に鼠が現れたとなったら残さず駆除してくれるし……その目と翼と鋭い爪でもっての狩りからは何者も逃れられないといった状況だ。


 自分よりも体の大きな相手……たとえば私との鍛錬目的の模擬戦の際にも、目などを急所を狙うという戦い方を心得ていて、その翼で相手を翻弄するという確実かつ安全な戦い方を徹底していて……そう簡単には勝たせてくれない相手となっている。


「いや、それでもディアスが勝つじゃねーか!

 いきなり動きを変えて唐突に腕を伸ばしてきて、こっちの足を掴んだと思ったらなんとなく勘で出来たとか訳のわからねぇことを言いやがって!!」


 いつの間にか考えていることが声に出てしまっていたのか、止まり木杖の上に立つサーヒィからそんな声が飛んでくる。


 確かに今のところは勝てているが、私の動きにサーヒィが慣れきった際には負けてしまいそうで……青々とした大空、蒼穹を舞う狩人サーヒィに負けてしまう日がいつか来るのかもなぁと、そんな事を考えていると……止まり木杖の上のサーヒィは「いやいや、無理無理、絶対無理だから、そんなの」と、そんなことを言いながら、その翼をまるで手であるかのように、左右にぶんぶんと否定の意味を込めて振るうのだった。


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