第48話 コミカライズ26話 公開予告SS


 この日ユンボは、いつにないプレッシャーを感じながら仕事に励んでいた。


 線を描き、絵に仕上げ、コミックの形に整え……あまりのプレッシャーで手が震えてしまうが、それでも懸命に休むことなく動かし続けて。


 そんなユンボの周囲に蠢く白い毛の塊達の姿があり……その塊達は無言でじぃっとユンボのことを見つめていて……そうしながら熱視線と凄まじいまでのプレッシャーをユンボへと浴びせかけていたのだ。

 

 ユンボのユルトの中を埋め尽くすだけでは飽き足らず、ユルトの周囲を覆うようにして囲い込み、逃げ出そうと思っても逃げ出しようがなく、白い毛の塊達の望むものを仕上げる以外に道は無く……。


 そんな地獄のような空間でユンボは懸命に手を動かし続けるが……あまりのプレッシャーと疲労感で、段々とその手の動きが鈍っていく。


 すると周囲の白い毛の塊達から声が上がる。


「メァー! メァメァ! メァー!」

「メァメァーメァッメァー」

「メーアー、メァーメァメァー!」

「メァメァー、メーアメァー」

「メァ~~、メァメァメー」

「メァ~、メァーメァメァ、メァ」

「ミァ~~、ミァミァミァ~~」


 応援、叱咤、激励……ただの賑やかし。


 様々な思いを込めた声が好き勝手に鳴り響き、凄まじい音となって降り注ぎ……ユンボはその耳をペタンと閉じながら、少しでも早くこの仕事を終わらせようと、手を動かしていく。


 メーア達の活躍を、メーア達にとって大事なあのシーンを。

 フランシスとエゼルバルドのあの時のことを描くというこの仕事を……。


 以前にもメーア達が自分達のことをしっかり描けと、そんなことを言うためにユルトに押しかけてくることがあった。

 ユンボに少しでもよく描かれようと、あれこれと策を弄してくることがあった。


 だが今回のこれは……今起きているこれは、以前のそれらとは全く違う、桁違いの規模のものとなっていて……最近生まれた六つ子達や、最近イルク村の仲間となった元野生のメーア達までが参加しての、かつてない大規模なものとなってしまっていたのだ。


 周囲を見回しても、開けっ放しとなっている出入り口からユルトの外へと視線をやっても、視界に入りこむのは白、白、白、真っ白な毛を身にまとうメーアばかり。


 メーアしかない、メーアだけの世界となった、メーアまみれのユルトの中で、ユンボは懸命に手を動かし、絵を描き……この状況から、凄まじいまでのプレッシャーから逃れようとしていく。


 そうしていくらかの時間が流れて……日が沈み始めた頃。


 ついにコミックを描き上げることに成功したユンボが、コミックが描かれた紙束を両手で大きく……周囲のメーア達に見えるようにと掲げてみせる。


 ほら、しっかり描いてやったぞ、ちゃんと仕上げたぞ、これで文句ないだろ、早く俺を解放してくれ。


 そんな思いを込めてのユンボの行動に対し……メーア達は『メァー!』との感謝の一鳴きをしてから、紙束を掲げるユンボの下へと集まってくる。


 そうしてユンボのことをもっふりと、その毛で持って包み込んだメーア達は……解放を望むユンボの思惑と裏腹に、こうして欲しいのだろうと、これが欲しかったのだろうと、そんなことを言いながら、そのもふもふの毛でユンボのことをいつまでも……日が沈み夜が明けるその時まで、包み込み続けるのだった。

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