第46話 コミカライズ25話 公開予告SS
ディアス達が旅行で不在となったイルク村でユンボは我が世の春を謳歌していた。
コミックの内容に反応してあれこれと手出し口出ししてくることの多いアルナーがおらず、素行やらに厳しいディアスがおらず。
ディアス達への取材が行えないという問題はあったものの、今描いている辺りの出来事は自分の目で見ていることもあって取材の必要性は薄く……そういった理由からなんとも気楽な日々を過ごすことが出来ていたのだ。
イルク村にはディアス達不在の穴を埋める形で、村長代理となったディアスの伯父……ディアスやアルナーよりも厳しく恐ろしいベンが居る訳だが、どうやら雑務やら何やらで休む暇も無い日々を送っているようで、ユンボに構っている暇は無いようで……ユンボが何をしようとも、どんなコミックを描こうとも文句を言ってくることは無かった。
自由。
そんな文字が常に頭の中に浮かんできて、なんでもないはずの日常の光景すら輝かしく見えて……誰にも邪魔されずにコミックを描いているとついついご機嫌になり、思わず鼻歌なんてものが漏れ出てしまって……。
何をしても許されて、どんなことでも出来てしまう状況で……。
とは言え手を抜くつもりは微塵もなく、面白いものを描きたいという思いはこれまでと変わらず……真剣にペンを握り、紙束へと線を、絵を、コミックを描き記していく。
いつもよりも静かなイルク村の中で、穏やかとも物足りないとも言える空気の流れる中で……。
そうやってユンボが作業を進めていると玄関の戸を器用に開けた一頭のメーアが、ユルトの中へと入ってくる。
それはメーアの中でも特別凛々しい顔付きをしたメーアのエゼルバルドで……フランシス達が不在でも困ることのないようにと、懸命にメーア毛の増産に取り組み、これまた休む暇も無かったはずの彼が、どういう訳かユンボの側へとやってきて……何も言わずに静かにユンボの隣に座り込む。
それはまるで『お前の気持ち、俺には分かるぜ』とか『連中が不在の間、一緒に頑張っていこうぜ』と、そう言っているかのようであり……その想いを受け止めたユンボは、照れているのか鼻の下を人差し指で軽くこすってから……ペンをしっかりと握り直して自らの天職に向かい合う。
するとエゼルバルトはすっと立ち上がり、その前足をぐっと持ち上げ……その蹄でもってユンボの作業机をカカッと叩く。
「メァメァー、メァー!!」
そうして上げたその声は『もっと凛々しく!』『俺の雄々しさをしっかりと表現してくれ!』と、そんなことを言っているようで……それを受けてユンボは、いまだかつてない、生まれて初めてしたかのような、苦々しい笑顔を浮かべるのだった。
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