第45話 コミカライズ24話 公開予告SS
カニスがユルトから去っていき……やっと解放されたかと思ったユンボの下に現れたのはディアスの伯父、ベンだった。
静かだが視線は鋭く、その鋭い視線で村全体を、ちょっとした出来事すらも見逃すことなく見やっていて……ユンボは少しだけだがこの老齢の男性のことを苦手としていた。
「忙しい所すまんね、少しそれを見させてもらおうかと思ってね」
柔和に微笑み静かに響く声でそう言ったベンは、ユンボがこくりと頷くと、すぐ側までやってきて「よっこいしょ」なんて声を上げながら座り、出来上がったばかりのコミックの束を手に取る。
「ほぉ……アイツが神官の真似事をしていたのは知っていたが……そうか、こんな風にやっていたのか。
そして戦場でも……か、なるほどな」
なんてことを言いながらコミックを読み進めていったベンは、眉を釣り上げ表情を渋くしていって……口角を釣り上げ、白い犬歯をむき出しにし、それをまるで牙かのように輝かせながら言葉を続ける。
「聖句、聖句ねぇ、アイツが聖句ねぇ。
一人前の振りをしやがって全く……で、アイツは具体的にどんな聖句を口にしたんだ?
ここに書いてあるのが全てではないんだろう?」
そう言われてユンボは、小首を傾げながら式の最中にしていたメモを取り出す。
いずれコミックのネタにするだろうと思って書いていたそれには、事細かにディアスが口にした聖句が記されていて……それをユンボが淡々と読み上げていくと、ベンは釣り上げた眉をピクピクと動かし、満面の笑みを浮かべてしまう。
それはユンボが初めて目にするもので、確かな殺気が込められていたもので、思わずユンボがビクリと反応してしまっていると、ベンは柔和な微笑みを再度浮かべて周囲に放っていた殺気をしっかりと抑え込む。
「いやいや、悪かったね、ちょっとアイツを叱る必要が出てきたってそれだけのことなんだ。
お前さんに何かするつもりなんてのはさらさら無いから安心してくれていいよ。
ただアレは駄目だ、勝手に聖句を改変して適当な内容に仕上げたあの馬鹿者だけは叱らないと駄目だ。
……そういう訳だから、来たばっかりですまないけれど、失礼するよ」
そう言って立ち上がろうとするベンに、その鼻をすんすんと鳴らしてユルトの外の匂いを嗅ぎ取ったユンボは、恐る恐る言葉をかける。
さきほどの殺気をどうやらディアスは感じ取ったようだ。
ついでに叱られる気配も感じ取ったようだ。
そして今ディアスは全力で何処かへと向かって脱兎の如く逃げ去っている。
叱るにしても追いかけるにしても、それなり苦労することだろう。
そんな言葉を受けてベンはにっこりと微笑み、
「いくらあの馬鹿でも馬の脚からは逃げられないさ。
ベイヤースの脚を借りればそれで済む話だとも」
なんて言葉を返してくる。
それを受けてユンボは、こくりと力強く頷き……あちらの方に逃げていますよとの密告をする。
するとベンは笑顔のまま……抑え込んだ殺気を放出した状態で、ユルトを出ていき、厩舎の方へと去っていくのだった。
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