第44話 コミカライズ23話 公開予告SS


 引き続きカニスがユルトの中に居座っている状態で……どうにか無心になることに成功し、作業を進めていたユンボは、ふとあることが気になってカニスに問いを投げかける。


 それは実際にクラウスに手を上げたことは何度あるかという、そんな内容のものだったのだが……それを受けてカニスがにんまりとした表情を浮かべたのを受けて、ユンボはしまったと、そんなことを思い渋い顔をする。


「えー? 聞いちゃいます?

 そんなこと聞いちゃいますー?

 いやー、だってクラウスさんは本当に理想の旦那さんで、ちょっと思い込みが激しい所があるけど、そこがまた良い部分でもあって。

 だから手を上げることなんてほとんどないですよ、ほとんど。

 私がそうするのはクラウスさんが危ない時っていうか、怪我をしたり命をおとしたりしかねない時で、そんなことになるくらいならって、そういう時だけなんですよ。

 普段はそんな、手を上げるなんてそんな、そんなこと無い訳で―――」


 そう言ってカニスはまた別の形で手を振り回し始める。

 照れ隠しのつもりなのかぶんぶんと左右に振ったり、ユンボが顔をそむけようとするとそれを止めるためにちゃんとこっちを見ろと言わんばかりに振ったり、あるいはクラウスとのひとときを再現するために振ったり……クラウスへの思いを身振り手振りで表現しようとしてみたり。


 それはもう完全にノロケと化してしまっていて、ユンボは心底うんざりとした表情になるが、カニスは止まらない、止まるつもりがそもそもない。


 イルク村の中でも婦人会の面々やアルナー、マヤ婆さん達とノロケられる相手はいるのだが、その面々を相手にする場合はどうしても遠慮のようなものが生まれてしまう。


 アルナーは隔意のない友人として接してくれているが、それでも領主の妻な訳だし……正確なことを言ってしまうとまだ未婚な訳だし、遠慮すべき場合というのが存在していた。


 犬人族達はクラウスの部下であり、マヤ婆さん達は事情あって家族と離れることになってしまった人々であり、どこかしら遠慮してしまう理由が存在していた。


 だが、ユンボであれば……クラウスの部下とはいい難く、特殊な仕事をしているユンボであれば遠慮をする必要が一切無い。


 ユンボからしてみれば遠慮をしろと、他と同じように自分にも気を使えと、そう思う訳だが……その想いがカニスに届くことは無かった。


 そうしてカニスは遠慮を知らず、限度を知らず……ユンボを相手に何処までもノロケ続けるのだった。

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