第43話 コミカライズ22話 公開予告SS


 コミックを描くために必要な紙とインク、ペンなどは、そのほとんどが隣領で仕入れたものである。


 紙は名産品である砂糖葦から作られていて、インクもまたその副産物で造られていて、ペンはそのインクが良く馴染むようにと設計されていて。


 更にコミックの製本作業は隣領で行われていて……ユンボにとって隣領との良好な関係は生命線であると言えた。


 描き上げたコミックを読んでくれる読者も隣領には多い訳で……そんな隣領との関係を取り持ってくれているカニスは、ユンボにとって欠かすことの出来ない特別な人物であったのだ。


 コミックを描き始める以前……隣領で暮らしていた時にも、小型種の世話係として色々と世話になっていたのもあって、ユンボはカニスに対しそれなりの敬意を示していたのだが……最近になってその敬意が薄れていってしまうような事態が起きてしまっていた。


「……もうちょっとですね、もうちょっとで結婚式ですね、あの素敵で幸せな皆が笑顔だった結婚式ですね。

 あ、もし必要ならあの時の衣装とか持ってきましょうか? ちゃんととっといてあるんですよ。

 飾りに使った小物とかも、大事な思い出の品ですからね」


 なんてことを言いながらカニスが、ユンボの仕事場……ユルトの中へと入り込み、じぃっと作業の様子を見やりながら、飽きることなく言葉をかけ続けてくるという、とんでもなく迷惑な事態が。


 カニスとその旦那であるクラウスのロマンスをしっかりと描いたせいなのか……そのロマンスの終着点、結婚式が近いとなってカニスは、我慢できなくなってしまったのか、そうやって毎日毎日、ユンボの邪魔をしてしまっていたのだ。


「ちなみにあの時に使った花とかもドライフラワーにしたんですよ。

 思い出ですからね、しっかりやらないといけないと思うんですよ。

 ドライフラワー造りが得意だっていうセナイ様とアイハン様にお願いしたら、それはもう綺麗に仕上げてくださいまして……あれを見る度に、あの時のことを思い出しちゃうんですよね。

 あ、でもでも、今も幸せなんですよ、クラウスさんは着実に出世してますし、イルク村も大きくなってますし、全然今も幸せなんですけど……結婚式は結婚式でまた別っていうか、特別っていうか、大事……なんですよね」


 聞いてもいないことをペラペラと喋り、その時のことを思い出したのか恍惚とした表情を見せるカニス。


 そんなカニスのことを半目で見やったユンボは……出てってくれた方が良い仕上がりになるんだけどなぁと思いつつも、それを言葉にすることはなく、苦い表情のまま作業を続けるのだった。

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