第39話 コミカライズ4巻 発売記念SS
――――ユルトの中で ユンボ
雪が降り積もる冬の最中。
今回もまたコミックが本となるとなって……様々な『オマケ』を描いたユンボは逃走の準備をしていた。
床、天井、壁、様々な所に仕掛けを施し、逃げ道を作り出し……いつでもアルナーの奇襲が来ても良いようにと備えて。
もうこれで彼女の魔の手から逃げるのも4度目……ユルトを出た後の逃走ルートの確保もしているし、村のあちこちに犬人族にしか通れない穴も掘ってあるし、いつものようにはいかないぞと、ユンボが鼻息を荒くしていると、アルナーらしき気配がユルトの玄関へと近づいてくる。
ゆっくりと落ち着いた様子で……どういう訳か気配を殺すことなく堂々と、ぐむりぐむりと雪を踏む足音すら消そうとしていない。
これは一体どういうことだろうか? と、警戒心を顕にしたユンボが首を傾げていると……何かがユルトの玄関の前にどさりと置かれて……そしてそのままアルナーの気配と足音が、何処かへと去っていってしまう。
これは一体どうしたことか、なんだか随分と肩透かしなことになってしまったぞと、そんなことを思いながらも警戒をし続けるユンボは、ゆっくりとそろりそろりと足を進めて……玄関のドアをゆっくりと開ける。
するとそこには土鍋が置かれていて……雪の中にありながらもほかほかと何とも温かげな湯気を上げていて……それを見てユンボは全てを察する。
色々とやんちゃなオマケを描いてきたことは気に食わないが、それでも頑張っているということは認めてくれていて、コミックの面白さも認めてくれていて……そうして4冊目の本の完成をこうして祝ってくれているのだろう。
自分の行い全てを許してくれた訳ではないのだろうが、それでもこうして美味しそうな匂いを放つ料理を作ってきてくれていて……その手で鼻筋を軽くこすったユンボは小さな笑みを浮かべてからそっと鍋を持ち上げ、ユルトの中へと戻り……食卓の上へとそれを置く。
そうしてから鍋の蓋を開けてみれば、中には焼き立てといった様子の大きな骨付き肉が入っていて、見るからにたくさんの香辛料や薬草でもってなんとも美味しそうな味付けがされていて……ユンボはごくりと喉を鳴らす。
喉をならしこくりと頷き、骨付き肉の骨をがっしりと掴み……大きな口を開けてかぶりついたなら、肉からなんとも美味しい肉汁が一気に広がってくる。
ああ、まったく、なんて美味い肉なのだろう。
こんなに美味い肉は初めて食べた。
そんなことを思いながらがぶりがぶりと噛み進めていくと……肉の奥から更なる肉汁が、口の端から溢れる程の真っ赤な液体が迸る。
それは香辛料の赤さだった。
辛く舌が痺れる程の香辛料をたっぷりと、常識外の量詰め込んだ赤さ。
祝福の想いと復讐の想いと。
その両方が込められたそんな肉を、ユンボは舌を痺れさせながらもがぶがぶと骨だけになるまで食べ続けるのだった。
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