第38話 コミカライズ20話 公開予告SS
隣領からイルク村へと帰還し、尚もコミック作りを続けるユンボのユルトは、冬の寒空の下……なんとも暖かな空気に包まれていた。
その理由はユンボのユルトの中に押しかけてきた、イルク村のメーア達にあった。
コミックの中でメーアの出番は多く、よく描かれていることもありメーア達にとても好評で……ユンボがなんとなしに寒い中での作業は大変だと漏らしたことに反応し、有無を言わさずにやってきたという訳だ。
その毛を存分なまでに膨らませ、フランシス一家、エゼルバルド一家、他家族ごとの集団を作り、ふわふわともこもこと。
ユンボとその作業を手伝う獣人達の為にと、それなりに広く作られているユルトだったが、それだけの数のメーアに押しかけられてしまうとどうしても手狭で、ユンボ達はメーアの毛にすっぽりと包まれて……というか埋もれてしまっていた。
そこまでされてしまうと、作業をする側としては流石に邪魔でしかなかったのだが、メーア毛に包まれたことで暖かいのは確かで、火を使う必要が無い程で……煤や灰のことを気にせず作業出来るというのは、紙を使う仕事上とてもありがたいことで、ユンボ達は不便ながらもメーア達の善意を歓迎していた。
そんな独特の環境の中でユンボが作業を進めていると、メーアのうちの一人、エゼルバルドから声が上がる。
「メァメァメーアー!」
それはエゼルバルド達にとって懐かしく、忘れがたいある光景を描いた絵を見てのことで……ユンボはこくりと頷き、それが間違いなくエゼルバルド達であることを示す。
するとエゼルバルドだけでなく、その妻達も声を上げ始めて……、
「メァメァー」
「メァー」
「メァメァ~」
「メァー!」
「メッメァー!」
と、その絵の完成を歓迎するとの意を示す。
ついに自分達もコミックになる時が来た、登場する時が来た。
これからの活躍が楽しみだ、これからどう描かれるか楽しみだ。
するとフランシス一家を除く他のメーア達も、次々に声を上げ始める。
エゼルバルド一家ばかりに活躍はさせない、自分達も活躍しなければならない。
自分達もまたコミックで格好良く描かれなければならない。
そうしてユルトの中はメーアの毛と暖かさと「メァメァー」との声の大合唱に包み込まれる。
そんなメーアの坩堝の中心でユンボは……酷いくらいに顔を顰めて、暖かくて柔らかくてありがたいのだけど……それ以上に作業しにくくて困るなぁと、そんなことを胸中で呟くのだった。
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