第37話 コミカライズ19話 公開予告SS
――――マーハティ領 西部の街メラーンガル 領主屋敷にて
カニスの父に捕まり、こってりと説教をされて……そうして解放されたユンボは、解放されるなりゲラントをリーダーとする謎の集団に捕獲されてしまっていた。
捕獲され、地下室へと連行されて……そこで何かひどい目に遭わされるのかと思いきや、山盛りの料理と、砂糖菓子と、酒でもって歓待されるという、予想だにしていなかった展開がユンボを待っていて……砂糖菓子をちょいちょいと摘みながらユンボは、一体全体どうしてこんなことになっているのだろうかと首を傾げる。
「お客人を歓待するのは極々自然なこと……そう不思議がることもないでしょう」
そう言ってゲラントは部下と思われる獣人に指示を出し……更なる料理と歌姫と踊り子を手配し……そうしてからユンボの側へとすすすとすり寄ってきて、ぼそりと小さな声をかけてくる。
「ところで……我が領でも大人気となっているあのコミックですが、そろそろこう、エルダン様を活躍させても良い頃合いではないかと思うんですよ」
その声を受けて菓子を摘んでいたユンボの手がぴたりと止まる。
「もう少しばかり格好よく、男らしく描いてですね……その手を振るだけで山が割れるとか、大地が割れて水が吹き出し川が出来上がるとか、そういう展開をですね、描いて頂けると助かると言いますか……はい、良い宣伝になると思うのですよ。
ああ、ああ、もちろんタダとは言いませんよ、今回の歓待もそうですし、他にもたとえばこちらの、我ら諜報隊が集めておいた当時の各陣営の動きですとか、細かい情報ですとか……それとあなた方では知り得ない、ちょっとした情報なんかを書いたこの紙片なんかは……先生としても垂涎の一品となっているのではないかと思う訳でして……」
ゲラントがそう言うと、ゲラントの部下が一枚の紙片を差し出してきて……それともう一つ、大金が入っているらしい革袋までを差し出してくる。
「これらを受け取って頂いて、気持ちよくエルダン様のことを描いていただければ、それでもうこちらは満足と言いますか、場合によっては更なるお礼も用意する準備がですね……ある訳で、クルッホホホ……どうですか? 先生、ここは一つ我々に協力してみては……」
その言葉を受けてユンボは……鼻筋に皺を寄せての物凄い表情をする。
エルダンを少しばかり格好良くくらいならまだしも、そんなありもしなかったとんでもない展開なんかを描いてしまったら、作品がおかしなことになってしまう、ここまでの展開全てが無意味になってしまう。
そんなこと何をされても、何を差し出されても出来るものかと唸り……それでもその情報だけは頂いていくと、バシッと紙片をつかみ取り……そのままダダダっと逃げ出し、凄まじい勢いでもって地下室を後にする。
「な、なんですと!?
これだけの歓待を前にしてまさかこちらの誘いを蹴るとは……!?
と、言うかですね!? 誘いを蹴るのであればそちらの紙片も置いていったらどうなんですか!?」
そんなゲラントの悲鳴が響く中、今まで鍛えに鍛えた逃走スキルで見事なまでにするりと、ゲラントの部下達の足の隙間をすり抜け、地下室から抜け出したユンボは……そのまま脱兎の如く、駆け続け、ゲラントの魔の手が届かないだろう、カニスの父の部屋に逃げ込むのだった。
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