第18話 コミカライズ単行本 発売記念SS



 ――――フランシス



 なるほど、これが本というものかと感嘆しながらページを一つ捲る。


 目の前の本には犬人族のユンボが描いた絵と文字を組み合わせたコミックなるものが描かれていて……上手に描かれた絵のおかげで、文字というものを読み慣れていないそれがしにも内容がすんなりと入ってくる。


 以前からユンボのコミック作りには力を貸していた訳だが……それがまさかこういう形に仕上がるとはなぁ。


 ページを捲るとその度に様々な絵が出迎えてくれて……おかげでページを捲るのを止められなくなってしまう。


 それにこの色付きの表紙!

 ……妻の姿絵がまさかこれ程美しくなるとは……全く言葉も無い。


 本の後半ではそれがしと妻の活躍がこれでもかと描かれているし……ああ、全く、これを作ろうと言い出してくれたエルダン殿には頭が下がる思いだ。


 そんなことを考えながら読み終えたページに鼻を押し付けて、くいっとページを捲る。


 おお……おお、悪くない、このページの妻の絵も中々どうして悪くないぞ。


 その絵のあまりの良さについつい、


「メァーメァー!」


 と、大きな声を上げてしまっていると、それがしのそんな声を聞きつけたのか、ユルトの外で日光浴をしていた妻が戻って来て、それがしに寄り添うようにモフリと体を落ち着かせる。


 そうして興味深げに本の中身へと視線をやる妻を見て……それがしは前足の蹄でもって本を閉じて、そうやって表紙を妻に見せてから、妻と共にゆっくりと本を読み直していく。


 せっかくの本も途中から読んだのでは面白さが半減してしまうことだろう。


 それがしと違って妻は絵をゆっくりと眺めるのが好きであるらしい。

 そんな妻のペースに合わせながらゆっくりとページを捲っていって……二人でゆっくりと本を楽しむ。


「メァーメァー」


 妻のそんな言葉に、ああ全くだと相槌を打つ。


「メァー」


「メァメァメァ~」


「メァメァ」


「メ~~ァ~~」


「メァメァメァ~~」


 ページを捲る度、文字を読む度、妻とそんなことを言い合って……なるほど、こうやって妻と一緒に楽しむのも悪くないな。


「メァ~! メァメァー」


 ははは、いやいや、それがしなんかよりもお前の毛並みの方が何倍も美しいともさ。

 それがたとえ絵であろうとも、その事実は変わらないよ。


「メァメァメァ~」


「メァメァメァー!」


 うむうむ……。

 ……おや、主君達のご帰還か。

 

 では続きはまた今度……明日にでも読むとしようか。



 ――――ディアス



 アルナーと共にユルトへと帰って来て真っ先に目に入ったのはフランシスとフランソワの姿だった。


 二人は仲睦まじい様子で寄り添い……そうして本を、ユンボのコミックを読んでいたようで、私達が帰って来たことに気付くなり、そっと本を閉じて、それを鼻で押して自らの寝床へとしまい込む。


 そんなフランシス達の姿を見て、唖然としてしまった私は……隣のアルナーへとそっと声をかける。


「な、なぁ、アルナー。

 もしかしてフランシス達は……その、文字が読めるのか?」


 そんな私の言葉に対し、アルナーは半目になりながら声を返してくる。


「今更何を言っているんだ?

 文字を読むどころか、あの蹄で文字を書くことも出来るし、ちょっとした計算だってこなしてみせるぞ?

 メーアなのだからそのくらいのこと出来て当たり前だろう」


 さも当然だといった様子でそう言ったアルナーは、それで話を切り上げて家事をし始めてしまう。


 う、うぅむ、当たり前のことなのか、普通のことなのか……。

 

 そんなまさかの事実に私が驚き困惑していると、フランシスとフランソワが、メァーメァーと元気に鳴きながらこちらへと駆け寄ってくる。


 私はいつものようにしゃがみ込み、いつものようにフランシス達のことを撫でてやりながら……フランシス達に対しての認識を改めるのだった。



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