第11話 バレンタインSS『二人の時間』
ある日の昼下がり。
セナイとアイハンとエイマが外に遊びに行き、フランシスとフランソワが日光浴の為にとユルトの外へと出ていって……ユルトの中でアルナーと二人きりとなる。
私もアルナーも外に出かける用事がある訳でもなく、昼食を終えての静かな時間を過ごしたいと、そのまま何を言うでもなく、ゆったりと体を休ませる。
天窓から太陽の光が降り注ぎ、ポカポカとユルトの中を温めて……温かい空気がなんとも言えない眠気を誘ってくる。
そうして思わず大きなあくびをしてしまって……そのまま眠ってしまっても良かったのかもしれないが、今眠ってしまって変な時間に目が冴えてしまうのも困りものだ。
どうにか眠気を振り払えないかと体をよじり、背筋を伸ばす。
私がそんな風にしていると、眠気を振り払う為なのか、アルナーが編み物を始めて……私もアルナーに習い、ナイフだのといった日用品の簡単な手入れを始める。
それから少しの時間が過ぎて……興が乗って来たのかアルナーが編み物をしたまま鼻歌を歌い始める。
高い音と低い音の入り混じった波打つアルナーの鼻歌。
そんな歌の中に私の作業音が混じっていって……ユルトの中が賑やかになっていく。
アルナーの鼻歌にはなんとも楽しそうで、嬉しそうな音色が混じっていて……それに釣られて私も鼻歌を歌いそうになる……が、私の鼻歌では楽しげなアルナーの邪魔をしてしまうだけだと、ぐっと我慢する。
そうしてアルナーは鼻歌を歌いながら、私はアルナーの鼻歌に耳を傾けながら作業を進めていって……―――
―――ふいに物音がして……そちらへと視線を向けると日光浴を終えたらしいフランシスとフランソワの姿がある。
存分に日光を浴びたらしい二人の毛はふわっふわに膨らんでいて……そんな毛を揺らしながら、フランシスとフランソワは何故か半目で私達の方を見つめてくる。
一体何だ、その目は……? と私とアルナーが首を傾げていると、フランシス達はくいっと顎を上げてユルトの天井……というか天窓を指し示す。
それに従い天窓へと視線をやると、天窓の向こうには茜色に染まった空の姿があり……いつの間にやら夕暮れ時となってしまっている。
時間を忘れる程作業に夢中になっていたという訳でも無いのだが……一体何が私達の時間を奪ってしまったのだろうか。
そんなことを考えて私が唖然としていると、アルナーが夕食の準備が! との一言と共に慌てた様子で立ち上がる。
そんなアルナーの様子を見て、これは手伝う必要がありそうだ、と私も立ち上がり……そうして私とアルナーは、急ぎ夕食の準備をすべくフランシス達の半目に見送られながらユルトから駆け出るのだった。
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