第3話 書籍発売記念SS 『ビレーシャ その1』


 鬼人族が、アルナーがいつも身に纏い大事にしているあの布はビレーシャという名前なんだそうだ。


 刺繍のされたメーア布とメーアの毛皮を張り合わせて作るビレーシャは、その柄や、どう身につけるかでその者の身分を表すんだそうで……生まれたばかりの赤ん坊の頃から、人生を終えるその時まで使い続けるとても大事な物であるらしい。


 鬼人族にとってメーアは友であり、家族だ。

 食肉目的で殺したりすることは絶対に無い。

 ……が、寿命などで死んだ場合には、メーア当人達の希望もあってその身を余すことなく日々の暮らしに活用していく。

 

 肉は食し、角や骨は削り加工することで暮らしに役立つ雑貨などにし……そして毛皮はビレーシャとなる。


 それらの品々はメーアの魂がこもっていると言われているのだそうで……なるほど、大事にするのも当然の話だな。


 


 そして私は今……そんなビレーシャを、アルナーが私の為にと作ってくれたビレーシャを身に纏っている。


 ……だが、これはなんというか……うん、鏡を見るまでも無く分かる。

 どうやらビレーシャは私には全く似合わないようだ。


 肌着の上にビレーシャを巻いた私の今の姿をなんと評したものだろうか……うぅむ、言葉が見つからない。


 そんな風にユルトの中で似合わないビレーシャを身に纏う私の周囲には、アルナー、クラウス、マヤ婆さん、フランシス、フランソワの姿がある。


 アルナーは私をじっと見つめながら渋い顔をしていて……マヤ婆さんは無言の真顔。

 クラウスとフランシス、フランソワは俯きながらその身を震わせていて……どうやら笑いを堪えているようだ。


 そうしたまま誰一人言葉を発さないのは、手間隙かけて作ってくれたアルナーに気を使ってのことだろう。

 ……私もこの状態で一体なんと言ったら良いものか……。


「……いや、驚いた。

 全く似合わないな。ここまで似合わないとは……逆に凄いぞ、ディアス」


 そんな沈黙をぶった切る形で、当のアルナーがそんなことを言い始めてしまう。


「何が悪いんだ……?

 肌が白すぎるのか……?

 いや、体格が良すぎるのかも知れないな。

 もう少しビレーシャを大きくしたら……いや、うぅむ、大差無さそうだな」


 アルナーの言葉がそう続けられると……それで堪えられなくなったのか、クラウスがぶはっと吹き出し、フランシスとフランソワがふんすふんすと鼻息荒く笑い始める。


「……これはあれだね?

 まるで北西海の蛮族のようじゃないか。

 坊や、その格好で棍棒を持ってごらん、紛うこと無き蛮族の出来上がりだよ」


 ごふっ。


 と、そんなマヤ婆さんの言葉には私も思わず吹き出してしまう。

 絵で見たことしか無いが、北西海に居るという蛮族は毛皮を身に纏い棍棒を振り回しながら、近づく者全てに襲いかかってくるような人々であるらしい。


 そんな人々にそっくりになってしまっているとは……もうこれは笑うしかないだろう。


 そうやって私が笑うと、クラウスとフランシス達はますますといった感じで大きく笑い……アルナーやマヤ婆さんもそうした笑い声に釣られて笑いだし、私達はしばらくの間笑い続けてしまうのだった。


 

 結局ビレーシャに関してはアルナーとマヤ婆さん達で話し合いながら、私に似合う何かへと改良する……ということになった。

 ビレーシャを大事にするという気持ちは理解出来るし、尊重したくもあるので、改良が済んだ時には身に纏うようにしたいと思う。


 しかし一体どういう改良がなされるのだろうか……。


 私の頭で思いつくのはマントだろうか。

 私が使っている鉄鎧に、ビレーシャのマント……。


 ……それはそれで全く似合わなさそうだし、いやはや、どういう改良がされるのだろうかなぁ……。

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