6. イン・マイ・ハート
垂直型のロケット打ち上げではなく、レール式の滑車型打ち上げ。
それが2基、RCC基地前に展開する。上がるのはもちろん大気圏突破用ブースターを装着したヴェーゼ・メガローダーと巡航形態のエクスブレイカー。
朝焼けが眩しい時間。両機コクピット内部に眩しさは分からないが、十分緊張感は走っている。
大気圏突破までの試算は5分。衛星軌道到達まで5分。たった10分だが、タケルにとってが初めてのことだ。長い時間になる。
ショウは初めてのことではない。宇宙に行くのは久しぶりだ。ただ、この地球の技術で機動兵器単体を宇宙に打ち上げるのは、いささか不安が残る。正直なところ、ほとんど試験もされていないブースターでの大気圏突破は賭けに等しい。
少し前に、ミアが机上計算していた大気圏突破ブースターはこれのことだったのだろうと思う。
(好いた女が作ったんだ。信じてやらにゃあね。)
ショウは頭の中で考え、笑う。
『発進まで1分』
『ブースター点火準備』
『進路クリア』
ブースターは片道のみであり、帰ってくる時はアサクラ、サクヤ、ツバサの3艦に回収された後のことだ。そんな3艦の発進準備も基地の地下区画で完了している。2機の発進をツバサから遠隔で進めている。
『残り30秒。カウントスタート。』
ミアのカウントする声が聞こえる。色気のない機械的に近い声だが、しばらく聞こえないとなると残念に思う。
『ブースター点火』
『3、2、1、発進』
両機のブースターが唸りを上げる。外では轟音だろうが、内部への振動はほぼ無い。ただ、これから急なGが2人を襲い来るだろう。
ブースターによって打ち上げられるというより、レールを使って発射されるといった勢いで2機が飛ぶ。
『第一次臨界点まであと5秒』
『2次ブースター点火』
コクピット内部の重力キャンセルが働くだけのGがコクピット内を襲う。喋ったら舌を噛む。大気圏を突破するまで、二人には祈ることしかできない。
チカチカと機体状態を示すコンソールが目まぐるしく変わる。
すでに地上からの管制音は聞こえない。あとは自動で動く。2人の知らない内に巡航ブースターが点火され、補助ブースターが切り離される。
ほぼ地球大気圏内から脱している。先は煌めく星々と闇しかない。
衛星軌道上に上がるまで、地球の重力に引っ張られる圏内である。また同時に、軌道上にあるプラネットクラスターに可能な限り接近することができなければ詰みでもある。
そんな中で、警告音が鳴り響き、間髪入れず赤い光の一閃が地球に向けて降り注ぐ。2機を狙ったものではないが。直近を通り過ぎてゆく。
「どこを狙って」
タケルは呟くもの、分かることは無い。巡航ブースターのアラーム音。そしてプラネットクラスターが目視で確認できるほど近づいている。
プラネットクラスターと呼ばれる衛星砲は、いわゆる砲塔ではない。機械的な闇の口を開きっぱなしにしている、砲台そのものである。
アテナの開示した情報の一つ、ガーディアン。グラウンドテンプルの移民船護衛機動兵器が2機、砲台に接続されている。エネルギー供給源なのだろうが、これならば連射はできないはずである。またプラネットクラスターなる物騒な名前であるが、代替エネルギーで発射しているのであれば、目的通りの威力は出すことはできまい。
不幸中の幸いだがそれでも。幾度となく撃たせるわけにはいかない。
ほぼ同時に、2機は残されたブースターを切り離す。衛星砲に接続された内の1機が切り離され、接近する2機に反応する。
『チェンジ!』
ヴェーゼとメガローダーがドラゴンヴェーゼに合体し、エクスブレイカーが人型へと変形する。
声も音も響かぬ宇宙空間。いくら声を出したところで響かないが、それでも。
「同時に!」
「ぶちかます!」
ドラゴンヴェーゼにはある。エクスブレイカーにも元々ある。それぞれの右腕を展開し、衝撃貫徹の拳をガーディアンへ打ち込む。
まだトリガーは引かない。ガーディアンを機動力で無理矢理押し込む。
暴れるガーディアンを、プラネットクラスター後部に接続されるもう1機のガーディアンまで押し込み、トリガーを引く。
2つの衝撃が推し込まれたガーディアンを貫き、力はもう1機まで届く。それは衛星砲の接続部に達し、破壊され、崩壊し、動力パイプに内部で火花が引火でもしたのか、爆発を伴う。
至近で爆発が起こったが、ドラゴンヴェーゼもエクスブレイカーも大した被害は出ていない。衛星砲の制圧は、ここに成った。
あとは、月の裏側にあるグラウンドテンプル本拠地に決戦を挑むだけである。
ドラゴンヴェーゼとエクスブレイカーを打ち上げた後は、後詰めとなる3艦の発進だ。予定通り、司令室ではイクズスのみが残され、艦発進の最終安全装置レバー解除のみである。
『注水完了』
『発進ゲート1番から3番まで最終ケージ開放』
3艦それぞれの発進口が開かれ、港の方でも安全装置解除が待たれるだけとなった。
しかし、警報は鳴る。ヴェーゼとブレイカーには当たらなかった衛星砲からの砲撃。その本来の目標はRCC基地であった。
『衛星砲砲撃! 砲撃地点はここです!』
司令室には艦の通信が聞こえる。イクズスはこの時点でレバーを引いていた。
南無三。
イクズスは正直言うと祈っていた。撃つだろうなという予想は当たった。3艦の発進も間に合う。ただ、逃げる時間はシビアだった。
衛星砲の砲撃は多少逸れた。その分、運は良かった。だが、恐らくは相手方の微調整で多少薙ぎ払われた。
それに気付くか気付かないかのところで、イクズスは司令室の脱出口を直に飛び降りた。轟音と基地内が崩壊する衝撃。脱出口という名の、排気区画を降りて、底の見えない下へと降る。
途中で降り口が塞がられれば終わりである。イクズスとてトマトジュースか肉塊になること必至だ。
外では砲撃がRCC港湾基地に直撃したように見え、崩壊していく。周辺海域は波が荒れる。
だがその中で、海中から赤く翼のある艦が1隻と、白い艦が2隻出てきて、飛び上がっていく。
空中艦は未だ研究段階の技術である。もっとも、統一機構の大陸間移動要塞艦アトラスが健在である以上、RCCでできないわけがなかった。
砲撃の難を逃れて飛び立つ3艦は空の彼方を悠々と飛び立ち、大気圏を突破する。その間もなく、先行した2機から衛星砲破壊の知らせが入る。
「私が知らせる」
東堂司令も宇宙活動用船服を着ていた。こうして宇宙に上がった以上、作戦遂行は果たされなければならない。イクズスの安否は知りたいが、下にその術はないだろう。
東堂トモマサは軍務経験者の司令官である。かつてRCCの前身である藤川ベースに赴任する際、防衛軍に条件を出した。
イクズスを参謀として採用することや防衛軍から独立し、政府直轄とする指示系統とすることの確約、広報による商業活動を認めさせることなどである。
それらはほとんど認められ、RCCとして組織再編後、独自の兵器群を拡充してきた。
そうした理由は、かつてイクズスらと共に戦った経験からである。
現在の世界は、混沌だ。トモマサが一度命尽きるまで戦い抜いた前世の時と同じぐらいには戦乱のある時代であろう。
だからこそ、彼はイクズスを参謀として迎え入れ、助言を求めたのである。
だが、こうしてツバサの司令官席に座る今のトモマサには、側にイクズスがいない。攻略プランの遂行以外は司令として決断しなければならない。
「ドラゴンヴェーゼ、エクスブレイカー、健在」
「大きな損傷も認められません」
セティは2機の映像を映す。ほぼ無傷。ミアも安堵のため息を吐く。
「アサクラ、サクヤ、両艦は作業にかかれ。ツバサ整備班各員は2機のチェックだ。」
『了解!』
ツバサの指令艦橋とて安全ではないし、席を深く座れるほど楽なポジションではない。
「2人とも聞こえるか」
半ば破壊された衛星砲の近辺まで近寄り、待機するドラゴンヴェーゼとエクスブレイカーに接近する。今はまだ彼らを格納するわけにはいかない。宇宙船外活動はほとんど素人だが、大きな損傷がないなら各部のチェックと、パイロットの状態チェックだけで済ませる。
そのために待機した班員が、命綱付きで作業にかかる。
ツバサの正面モニターにタケルとショウが映った。
『2人とも聞こえるか』
作戦通り、宇宙でも活動できる3艦が衛星軌道上までたどり着いた。アサクラとサクヤは衛星砲の残骸へ近づき、ツバサが2機へと接近する。そして、ツバサから宇宙服の作業員が命綱で飛び出してきて、ドラゴンヴェーゼとエクスブレイカーの両機に取り付き、人の手による状態チェックが実行され始めた。
それと時同じくして、ツバサの指揮所から東堂司令の通信映像が開かれた。
『衛星砲がまた撃たれ、君たちが無事だったのは僥倖だ』
彼らにとっては狙いが逸れていたのが幸いした。ただそれは同時に本来の着弾点があったとに他ならない。
『衛星砲の目標はRCC基地そのものだった。我々は間一髪で脱出できた。』
その事実は、タケルにとって認めたくない現実でもあった。作戦通り3艦を出発させるために基地内に残っていれば無事には済まない。
何よりこの時において、司令の側に姿を現さないのはおかしい。
イクズス参謀は残って3艦を出発させ衛星砲に撃たれたということがいとも簡単に理解できる。
『宇宙に上がった以上、安否を確認する術はない。向こうも同じことだ。』
確認されていない以上、イクズスは生死不明となる。だからといって何になるのか。タケルは事実を受け止めきれず、視界が乱れる。
『確認するまで死んではいない!!』
通信に横入りするかの如くツバサの格納庫内で待機するリュウが叫んだ。
『お前に勝手に絶望視されるほど、あいつはヤワじゃない。統一機構の総帥を倒した男のしぶとさを信じろ!!』
実の父親にして、RCC機動部隊隊長が叱り飛ばす。
『隊長の言う通りだ』
東堂司令は冷静に言葉を続けた。いくらも動揺しているようには見えない。
『今は殺したら簡単に死ぬような男だが、彼は死亡率の高い作戦にこそ保険を掛ける男だ。そのためにカラミティを地上に残した。だから今は狩れと彼の立てた作戦を信じ、遂行するんだ。』
司令は冗談には聞こえないことを織り交ぜながら、タケルを激励する。
『確かにな』
黙って聞いていたショウが同意した。
『兄ちゃんは、大穴に落ちても生きてたし、高所恐怖症なのに生身で空中戦して弾幕で死にそうになりながらも生きてたからな。悪運の強さはナメちゃいけねぇな。』
どこまで事実か分からないことをショウは言う。
『死体を確認してからだな、悲しむのは!』
どこかヤケクソ気味に彼は言っている。彼も信じたくない話なのだろう。いつもの強気な言葉で、それを覆い隠している。
タケルは違う。パイロットスーツ越しに操縦桿が握れない。手が震えている。左手で右手を握るが、震えは止まらない。
今になって怖くなってきた。おかしな話だが、ここまで怖いと思ったのは、かつてレイヴンに捕まって人質になった以来である。
今までは怖くなかった。父のように戦いたいのと、イクズスに自分の戦いを見せたいというのが大きな理由だった。その信念が初めて揺らいでいる。
今までは戦えると思っていたのに、急に失敗が怖くなった。それを思うと手が震える。初めから二度目がない作戦だったというのに、怖気づいている。
頭の中が熱い。眼底が滾る。呼吸が荒くなって、口の中はぐちゃぐちゃだ。一刻も早くヘルメットを脱いで、普通の空気を吸いたいと思う。
そんな中で、アラームが鳴り、コクピットハッチが解放される。装甲向こうの人間の生きられない空間、宇宙が目の前に広がっている。コクピットを外部から開いた者が栄養食をぎっちり詰めた籠を持って入ってくる。
その者は頭突き気味に自らのメットをタケルのメットに対して小突きながら近付いてきた。
『なんて顔をしてるの』
間近に接近してようやく分かる顔はアテナだった。彼女は、タケルの顔を見て眉間に皺を寄せた。
「怖いんだ」
か細い声を更に絞り出したようにかすれた声で彼は言った。年相応の少年の様子であろう。彼は今ヒーローなどではない。失敗を恐れる普通の少年である。
それを見て彼女は幻滅することなく、コクピット内に押し入った。何をどう動作させるのか知らないだろうに、コクピットを閉鎖させてからメットを脱ぐ。
「あなたも」
彼女は、不思議な圧でタケルにメットを外させようとする。だが、タケルの手は震えたままでメットは外れない。
ようやく外した彼の顔は半泣きだった。目の中に貯められた涙が泡となって宙に浮かぶ。
「私はあなたに託すわ。同胞たちの命を救うこと、暴走した仲間を倒すことを。」
アテナの勝手な願いである。それを果たす義理は、タケルにはない。
「帰ってきたらエッチさせてあげるとか、キスしてあげるとか色家のあることを言う気はない。あなたは私の目的のために戦うのよ。」
「嫌だ!」
アテナはいきなり戦いを強制してくる。当然、タケルは拒否する。その言葉はまだ力強い。
「なら、あなたは今まで通り戦えばいい。それならできるでしょ。」
今のタケルに必要なのは目的である。イクズスの安否でそれらが精神的に揺らいでいるだけである。であれば、それを思い出させるしかない。アテナとしては、即物的にタケルが求めてきたらどうしようかと思った言い方であったが、そういう心配はなかったらしい。
タケルは彼女に言われて3ヶ月程度の戦いを思い出す。少年の時の父やイクズスの死闘には遠く及ばないが、自分で臨み、戦ってきたつもりだった。今回は褒めてくれる人はおらず、武勇伝にもなれない戦いであるが、だからといって戦意を挫けさせるものではない。
手の震えは止まっている。未だに眼底は熱いが、頭の中は落ち着いてきた。
「アテナ」
無重力で浮かびながら見下ろしてくる彼女の腕を掴んで引き寄せる。そして、あまりにも自然に抱きしめてしまった。そこになにか考えがあったわけではない。
「ありがとう」
純粋な感謝の気持ちを伝え、彼女に笑顔を浮かべた。それを見て、彼女は少々ばつが悪かった。激励の仕方が卑怯だったのもさることながら、10代の少女が本来することではなかった。
お互いメットを被り、コクピットハッチを再び開放して、アテナだけが出る。別れの言葉はお互い無い。手を振るような動作もない。
(キスぐらいしておけばよかったな)
アテナは少し後悔しながら、ツバサのエアロックに戻った。
同じ時、エクスブレイカーではショウがコクピット内にミアを招き入れていた。タケルと違い、彼女の持ってきた飲料には手を付けていた。軽食には手を付けていない。
「なんで食べないのよ」
「固形物は後のことを考えるとちょっとな」
彼女としては珍しく慣れない手料理に手を出したのだが、不格好とはいえ手を出されもしないのはプライドに障る。野菜とハムが挟んであるシンプルなサンドイッチである。
「あ」
うっかり、とミアは気付いた。エクスブレイカーは変形戦闘をメインにするレイブレイカーの改良機である。そのためスピードは出るし、高速戦闘を行う。同時にかかるパイロットへのGは相当かかる。そのつもりはなくても、人間は衝撃のせいで嘔吐する。その際、吸収率の悪いものは優先的に吐き出される。それで視界不良になってしまうのはカッコ悪すぎる。
「高速戦闘は結構、な。帰ったらゆっくり食わせてもらおう。」
分かったのなら、とショウは食べ物の残った籠をミアに押し付ける。だが、籠はミアに届かず、彼女の横を通り過ぎていく。
「ああ、くそ」
そんな所に投げるつもりはなかったとばかりに彼は舌打ちしている。ぬるいレモネードが入ったドリンクに刺さったストローは歯で噛まれて潰れている。
「あなたね」
強がってばかりでも、タケルよりもまるで歴戦の戦士のような態度でも、ショウという男は弱さを見せる時がある。
ミアはその様子を目ざとく見つけて、シートの端をとっかかりにして彼の膝の上へと滑り込む。
「不安なら、そう言いなさい」
「俺はいつだって別れる人生なんだ」
ミアの抱擁に、彼は呟く。
いつかの別れがある。置いてかれることが怖くて、置いていく生き方をしていた。トラウマとも言えた。生まれた時に母が死に、父が生き長らえず亡くなったせいだ。永遠の友であり、仲間であり、人生の先輩でもあるイクズスがいなくなったのは、タケルのみならずショウの中でも大きかった。
「死ぬ気なんてないが、死んで楽になろうという自分が心の片隅にいる」
彼はストローを噛む。もう飲み物は残っていない。吸っても、何も残っていない。
「司令も言ってたでしょ。安否は確認されていない。」
「だから何も分からない」
「ならバカになりなさいよ」
お互いメットを被ったままだから、キスすることはできない。だが、密着することはできる。ミアは尻を下品に彼の膝の上にこすりつける。
「バカみたいに戦って、帰ってきて、私と夜通しやり合うまで、バカになればいいでしょ」
「お猿さんかよ」
彼女の蠱惑的な誘いに、彼は鼻で笑うかのように嘆息する。憎まれ口を叩いている様子を見れば、多少調子は戻ったようである。
「待ってるわよ」
「おう」
お互いバイザーのメットを下ろし、ショウは返事をしながらドリンクホルダーをミアに投げ渡す。今度は狙いがずれない。不安が解消されたわけではない。今は、彼女の言う通り考えないようにするだけである。
コクピットハッチを開けて彼女と別れ、またハッチを閉鎖すると孤独なコクピットになる。
「よう、弱気の虫は晴れたかよ?」
自分がそうだったことを押し隠して、先輩風最大風速でタケルに話しかける。
『いやあ、全然。まだまだ。』
「おいおい」
タケルの返答はショウの納得いくものではなかった。だが、言葉の調子は元に戻っている。おどけているようにも、冗談のようにも聞こえる。
『だがまぁ、決戦とか決着を着ける戦いとかじゃなく、地球にまた戻るための戦いと思うしかねぇってな。』
「違いない」
ショウの思う年齢詐称女と何を話したか知らないが、タケルのほうは心配ないらしい。
『きっちり終わらせて、2学期迎えような!』
「ちょっと問題が矮小化した!」
どうにもズレた物言いも元に戻ってしまった。それはそれでらしいのかもしれない。
かつてアポロ11号は月まで約4日の時間を要した。じゃあ今はというと、半日かかる。ショウはサンドイッチを食べ逃したことを後悔した。
軌道上の衛星砲跡にアサクラとサクヤを残して、司令船ツバサはヴェーゼとブレイカーと共に月の裏側へと急ぐ。
「全艦戦闘速度! ドラゴンヴェーゼ、エクスブレイカー、2機は先行して突撃!」
まだ敵宇宙船は見えていないが、東堂司令は指揮を始める。ツバサの両翼にいる2機がツバサを離れて速度を上げる頃に、閃光が何本もツバサの脇を通り抜けていた。
東堂もこの状況を察していたわけではないが、仕掛け時は相手が見誤っていないということだ。ただ、向こうとしてもツバサの所在を察しているわけではないめくら撃ちもいいところである。
ともすれば砲撃は相手の位置を察っせられる好材料だ。前向きに考えれば、相手の方がビビっているとも言える。
「動体反応複数!」
「ガーディアンを展開した!」
索敵するセティが叫び、補助オペレートするアテナも状況を察する。
「全艦巡航速度維持。対空戦闘展開後、機動部隊出撃!」
東堂の指揮通り、ツバサの対空火器が展開し、戦闘を開始。同時に、メインデッキから格納されていた機動部隊がせり上がる。
武装警察機、
航空機動機、フェニックス。
突撃戦車機、アルマダ。
そして、機動部隊隊長、藤川リュウ、ドラゴンソルジャー。
エクスドライバーであるタケルは宇宙であろうと生身で出て来ても特に問題ないらしい。声は届かないだろうが。
リュウがドラゴンソルジャーへと変身し、迎撃に出てきたグラウンドテンプルのガーディアンに相対する。サイズ差は子供と大人ほどだが、気力はリュウが大きく勝る。何より、機械的な連携しかしないガーディアンに対し、エクスドライブマシンの黒たちは人間的に判断し援護する。それにより、瞬く間にガーディアンの1機を撃破する。
『よし!』
RCCの機動部隊の面目躍如である。今まで前線をタケルとショウに任せていただけで、リュウが戻ってくればこの通りである。
ただ敵はガーディアン1機だけではない。
『うお!?』
敵の巨大移民船が宇宙の暗い闇の中から現れると、対空迎撃が飛び交う。それにやられるドラゴンソルジャーではないが、流石に驚いてしまう。
そして更にガーディアンの追加も来る。
『こっちに全部来てくれると嬉しいねぇ!』
『言ってる場合か!』
宇宙では推力でしか機動力が無いドラゴンソルジャーはそもそも宇宙戦闘が不向きである。三次元戦闘をするならフェニックスの機動力がいる。彼女に拾ってもらって、ガーディアンを迎撃する。
ただこれらは陽動である。本命はヴェーゼとブレイカー。彼らが宇宙船中枢へ進み、戦闘能力を無力化させるためコンピューターAIを破壊するのだ。
それはアテナから開示された情報からの作戦だ。アテナたちグラウンドテンプルは高性能なAIによって移民船を維持している。そのAIの戦闘を司るものを破壊する。戦いに対して無力化できれば、脅威は少なくとも排除できると考えたのだ。
巡航形態のヴェーゼとブレイカーが敵船に突入して間もなく、明るく、開けた空間に出る。
中心に砂時計のような機械がある、あまりにもあからさまな装置である。怪しさはあるが、疑う余裕はない。
この装置の場所はアテナからの情報である。向こうが彼女の裏切りに気付かなければ、システムの移行をされることはない。
「一気に行く!」
タケルはレバーを引き、ドラゴンヴェーゼを合体形態に移行、エクスブレイカーと軸合わせを行う。
エクスブレイカーのコクピットブロックがヴェーゼへと合体し、ヴェーゼ内がいつもの複座席に移行する。
残されたエクスブレイカーの各パーツがドラゴンヴェーゼと合体し、一回り大きくなる。
「ヴェーゼブレイカー、合体完了!」
「見栄きりしてる余裕はないぞ!」
「分かってる!」
余裕があれば合体ポーズでも取りたかったところだが、その余裕はない。手甲が装備され、より耐久性の上がったハードブレイカーで装置を突き貫く。
だが装置の寸前で拳が止まる。何かのバリアに阻まれている。
「かってーな!?」
「戦闘してもなおもバリアとAI制御を維持できるだけのエネルギーをどこに確保してやがる!?」
タケルとショウは矢継ぎ早に吠えた。
衝撃による貫徹攻撃でもバリアに阻まれてしまえば、貫くことはできない。2度、3度殴ったところで、やはり阻まれる。
「後ろだと!?」
「なっ!?」
急に現れた動体反応にショウが叫び、タケルは反応して振り返りはするも、奇襲攻撃を正面から受けた。
刃のようなものを受け、後ろに下がった後でバリアに弾かれ、結局ヴェーゼブレイカーは前のめりに倒れる。
相手はガーディアンタイプに見える。白く揺らめく剣のようなものを持っている。今まで見えなかったのは、光学迷彩か何かで隠れていたのだろう。
『原生人め、こんなところまで入り込むとは!』
ガーディアンから知らない男の声がする。グラウンドテンプルの者とは言語が通じる。アテナと話せるのからだが、なぜかは分からない。
タケルとショウしかいないから、判断を仰ぐ相手はいない。そのうえで、話し合えるような相手ではないと判断する。
「何が原生人だ」
ヴェーゼブレイカーを立ち上がらせ、タケルは苦々しく言い放った。
「上から目線で、勝手なこと抜かすなよ、野蛮人」
『私の支配を受け入れろ!』
一瞬だけ姿を見えなくして、ガーディアンが何かの波動を有する剣でヴェーゼブレイカーに触れてくる。その波動に直撃しなくても、エネルギーが減退するダメージが伝わる。
「くっそ!」
打ち込みは稚拙だが、当たらなくてもダメージがあるのは厄介だ。動いて姿が見え、少しでも止まっていると見えにくくなる。なまじ見えている分と剣の波動のせいで、距離を測りかねる。ハードブレイカーを決め手にするだけでは、距離の分が悪い。
『貴様らさえ、貴様らさえいなければ!』
向こうは向こうで、何かの憎しみがあるようだが、相手にしていられない。外ではリュウたちが陽動戦をしていてくれるが、宇宙船との戦いになってはジリ貧である。早く宇宙船の管制AIをタケルたちの手で破壊しなければならない。
「手はある」
戦闘はタケルに任せて、エネルギー管理をするショウが言う。
「こんなところで変な小物に絡まれたくねぇ。俺たちは帰ってやることがある。」
「そうだ。帰って、先生に会う!」
「おう、兄ちゃんに会わなきゃよ!」
好きな女の子の元に帰るのもそうだが、2人は一番の目的がある。それは男の子として当然のことである。その事にかけては、2人の意志は一致する。
余談だが、ヴェーゼドラゴンにはエクスドライブが備わっている。レイブレイカーを元にするエクスブレイカーにはエルザールドライブが装備されている。
エクスドライブは簡単に言えば、意志の力である。エクスソルジャーという異世界の戦士の意志の力をエネルギーとして模倣した半永久機関だ。
エルザールドライブはショウが生まれる前に使用された、これまた半永久機関である。異星人ゼラウズに使われていた機関にイクズスが手を加えた地球人でも使える戦う意志に呼応する機関である。
奇しくもそっくりのエンジンが、2つの意志が、同時に一致する。それはほとんど必然である。2人が戦うのは、同じ人物に褒めてもらいたいからに他ならないし、今までもそうだから。
2つの機関はフルパワーとなり、エネルギーが減退し始めた時よりも、パワーが上がる。
「俺達にはこいつがある。使え、タケル!」
ショウは機関最大を見て、腰から抜いた剣の柄を抜き放つ。それは刀身の無い飾りの着いた棒に過ぎなかったが、緑の刀身が自動で伸び、固定化する。
「刀身固定!」
本来はエクスブレイカーの武器、エルザールブレードだが、前述の通り、機関エネルギーは最大で展開された。むしろそれを想定されたヴェーゼブレイカー最大の武器とも言えよう。
「これなら!」
『今更、武器を変えようと!』
相手には悪あがきとしか映らなかったかもしれない。それは一瞬後に分かる。緑の刀身が横に一薙ぎされるだけでガーディアンの剣は霧散し、無力化する。すると、エネルギーが連動でもしていたのか、ガーディアンが停止しているにも関わらず、姿が露わになる。
「エクス」
「エルザール」
大事な必殺技だから、名前は一致しないが、言うべきことは決まっている。
『ブレード、夢想けぇぇぇぇん!!』
『な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?』
最大パワーで、最大ブーストで、ガーディアンを斬り抜ける。
一撃必殺。一刀両断。ガーディアンが2つに別れ、爆発が起こる。敵のパイロットも生きてはいないだろう。ついぞ名前を知ることはなかった。
爆発と同時に中枢の稼働も止まる。バリアの稼働も止まったが、エネルギーの流れが止まったのだから、もはや意味がないことだろう。
宇宙船の外では、宇宙船が対空戦闘を停止させていた。残っているガーディアンも戦闘を停止どころか動きを止めている。
「これなら外部からでもアクセスできる」
戦闘が停止し、落ち着いた状態であれば、アテナのアクセスコードから母船に対するアクセスができる。人1人の力ではAIのサイバー防衛に手も足も出ないからだ。
「AIプログラム目標を変更。行先を火星へ、と。」
グラウンドテンプル、約1億の民が未だに冷凍睡眠状態である。彼らを降ろす場所が地球というのは高望みしすぎたし、無茶な話である。
であれば、第二候補の星に下りるべきである。
アテナの上司のグロウヴは、移民完了の暁には自分が支配者の地位を夢見たのだろうが、結局上手くいかなかった。
火星は人間が住める環境ではないが、それはAIの行うテラフォーミングに任せる。そのためのシステムでもある。
「私はこちらに残る。お元気で。」
彼女は呟いて、プログラム変更の決定を行った。
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