第40話 十勇士たちの力

石川五右衛門は清州城に行き、半信半疑のまま六郎に言われた通り

信長に伝言を伝えた。

するとまるで分っていたように、言葉を返した。「相分かった。伝言ご苦労」

信長はそう言うと、直ぐに五右衛門に指示を出した。


既に堀秀政に二千の兵を与えて、桶狭間に土塁どるいを築かせ、そして周囲に出入りする土橋を一ヵ所だけにし、周りの堀に油を十分に流し込んでから、板で掘りを塞ぐように命じていた事を聞かされた。


それを聞き、一度攻め取らせてから、内部のどこか分からない場所に隠し地下室を設けて、義元の首を取る事を命じられると思った。


しかし、信長の言葉は予想に反して、全く別のものだった。義元と大原雪斎が京を目指して、居城である駿府城を出た後に、真田十勇士と協力して不老長寿の事を調べるよう命じられた。

「奴等は力攻めで一気に制圧しに来るだろう。信玄は三国同盟に加わった以上、裏切れば北条と今川に滅ぼされる。だが、真田十勇士は武田の客将である真田幸隆の家臣でもある。真田幸隆は信玄さえも認めている恐るべき者だと聞いておる。武田が矢面に立って戦を仕掛けても、簡単に負けるような者ではあるまい」


五右衛門は信長の言葉を理解した。表沙汰には協力は出来ないが、このままでは

今川の天下になってしまう。そして山々の道は通らず、日の本一だと証明するかのように、無人の野の如く大軍勢をもって押し切ろうとするはずだと。桶狭間の土城を作らせた理由はあるが、我々とはまた別の者の任務になる事を告げていた。


「そなたは桜と真田蒼紫の護衛役として、北甲賀衆200名を率いて、北の山道を通り武田領内にある駿府に一番近い真篠砦まじのとりでに入れ。

義元が出陣したら、真田十勇士と共に駿府城に入り、奴等の謎を解き明かしてこい。だが、手はずは整っているが、真田の忍とは別行動をせよ。必要ならば城を守る兵士を殺す事になるだろう。何者にもバレないよう上手く首尾を整えて参れ」


「はッ」


五右衛門は既に皆、信長の命令によって、各自動いている事を知ってか、北甲賀衆の棟梁として急ぎ、精鋭中の精鋭200名を厳選し、桜が匿われている商人屋敷に30名ばかりの配下を連れて、商人の恰好をして迎えに行った。彼女がいた商人屋敷は尾張屋と言って、他国にもその名が届いていた為、大勢の商人とその護衛役の持つ旗印を見ると、皆、驚く事は無いほどであった。


今川義元の領土にある幾つもの関所の守り人達に金子を手渡し、何事も無く駿府の北にある真篠砦まで辿り着いた。桜の傍にはいつも蒼紫がいたが、大原雪斎の不老長寿の件である事は容易に分かったが、二人は明確な目的は知らされないまま連れて来られていた。


桜や蒼紫には石川五右衛門の腹心である飛燕ひえん零燕れいえんが特別護衛にあたり、五右衛門は二百名の忍を統括した司令塔として、全てを把握し、今川義元の出陣の報せを真篠砦まじのとりでで、今か今かと待っていた。


山のほうから流れてきた霧が砦を優しく包み込んでいった。五右衛門たちは警戒態勢を取ったが、砦を守る守備隊長たちに慌てる様子も見られず、この辺りならよくある事なのだとうと、一人で納得した。その時、霧だけでその姿に触れる事も出来ない人型のような霧の人が、霧の中で触れる事が出来ないはずなのに、一通の書を五右衛門に手渡してきた。その霧は一言だけ確かに言葉を出した。

「久しいな、五右衛門。霧の才蔵だ。後でまた会おう」

才蔵と名乗った者がそう言うと、霧は晴れていった。

五右衛門は霧隠の才蔵だと言う事は分かったが、そのあまりにも見事と言うしかないほどまでに成長している昔馴染みに興奮を覚えた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る