第41話 深謀遠慮の真田幸隆

霧の才蔵が一寸先も見えない程の深い霧の中を、

五右衛門に背を向けて歩き出すと山々の霧から徐々に砦からも

才蔵と共に去るように消えていった。


暫くの間、五右衛門は霧が晴れるのを茫然自失のように

才蔵の消えていった方角に目を向けていた。

そして手渡された封を開けて、中身を読みだした。


「真田蒼紫殿。そなたの武功は信玄公も一目を置かれておられる。

その上、妙な武器や我々の知らない武術の使い手を信長公は御手許に

置かれ、夢母衣衆と名付けて、あの者たちをお探しになっている事に

幸隆は感心致した。あのような恐ろしい者達を集めているのは、来る

べき戦では多いに役立つはずだ。しかし、蒼紫殿もお分かりのように

共の娘や武装された者達、我々には理解を越える物を所持している者

たちもいる。我が家は城持ち大名ではあるが、何故かは分からぬが

大勢の者達が集まり続けている。山道を越え、戦略的に厳しい道のり

を越えてまで、この幸隆の元に集まって来ておる。そこでこれは幸隆

の願いとお受け取り頂きたいが、こちらの調べではあと10日は義元公

は動かぬ事を突き止めた。そこで桜と申す娘子に話を伺いたい。話に

よれば、我々には掴んでおらぬ情報を知っておるとお聞きした。こちら

までの道のりの手はずは既に整え、素通り出来るよう配下の者に命じて

おる故、問題は絶対に起こらぬと身命を賭してお約束致す。それでは

真田本城にてお待ち致す」


五右衛門は読み終えると、側にいた蒼紫に手渡した。蒼紫は頷きながら

その手紙に目を通していった。

「石川殿。真田幸隆はどのような人物か知っておられますか?」

五右衛門はその問いに目を細めて難しそうな顏をした。

幸隆の事は、才蔵や六郎などを通じて知ってはいたが、

常に先を見て、深謀遠慮に長けた男であった。信玄も幸隆に対しては

家臣というものでは無く、客将扱いをしていた程の男だった。

蒼紫の問いにまぶたを閉じて推し量ってみたが、

結局分からず仕舞いで、気持ちをそのまま一言にして言った。


「多くの名将を見て来たが、噂倒れが多い中、あの何もかもを

見透かす目を見た時、初めて身震いした。幸隆に嘘を通じぬ。

それだけは覚えておけ」


蒼紫はその事を話す時、五右衛門の額に汗が浮き出してきている

事に気づいた。強将では無い幸隆の恐ろしさが、ハッキリとは

見えないでいたが、この時はまだそれだけしか分からなかった。


「それでは早速参りましょう。桜! 出掛けるぞ」

駆け寄って来た桜の前に、突然二人の忍者が腰を低くして現れた。

「この者たちは俺の腹心だ。蒼紫も強いが世界は広い。桜を守りきる

為に、この二人にお前たちを陰から守らせる」

飛燕ひえんと申す。零燕れいえん申します」

男と女の忍者であった。色々な事に対処するには、その方が都合がいい

事に蒼紫は気づいた。特に零燕に対して、桜は好奇心を持つ眼差しを

していた。同じくノ一として、強く興味を示していた。

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