第39話 数多の布石
蒼紫と桜は長可によって蜂須賀正勝の屋敷に
匿われていた。一見しただけでは商いをして
いたが、奥は迷路のようになっており、仮に
敵の密偵が来ても、道は開閉式で迷った挙句の果てに、水や食料も無い場所で動けなくなるよう作られていた。
味方にとっては、商人等の恰好をして、
密偵等の滞在場所などにも使われていた。
蜂須賀正勝の配下は多数いたが、正式な数は
分からないほど、各国に散っていた。
桜を守る為に、野武士たちはあらゆる恰好や
行商人に化けて見守り、更に石川五右衛門は配下に命じて、周辺の警備に当たらせた。
警護は完璧だったが、石川五右衛門は腹部に
痛みが走る度に、あの少女であった娘を思い出させた。
自身よりも明らかに若い忍者に敗北した。
若くして、伊賀の一角を成す棟梁となり、
負けた事は初めてだった。
しかし、安心もした。あれほどの手練れが
清州城の守りについているのであればと。
五右衛門がそう思いにふけっていたら、
突然、殺意は感じられないが、また別の巨大な気配を感じ取った。
しかも、この気は馴染みのあるものだった。
まさか? と一度は思ったが、
いつの間にここまで成長したのかと
疑うほど強い気だった。
男は高き場所から己の気配を
広げて居場所を探ると、
無音の殺しの足運びを駆使して、
高い場所からその気の場所を探っていった。五右衛門はその青年を上から見下ろした。
少年は足を止め、五右衛門にゆっくりと視線を送った。先ほどまで放っていた気配を殺していき、敵意の無い事を示してきた。
五右衛門は俊進可によって蜂須賀正勝の屋敷に
匿われていた。一見しただけでは商いをして
いたが、奥は迷路のようになっており、仮に
敵の密偵が来ても、道は開閉式で迷った挙句の果てに、
水や食料も無い場所で動けなくなるよう作られていた。
味方にとっては、商人等の恰好をして、
密偵等の滞在場所などにも使われていた。
蜂須賀正勝の配下は多数いたが、正式な数は
分からないほど、各国に散っていた。
桜を守る為に、野武士たちはあらゆる恰好や
行商人に化けて見守り、更に石川五右衛門は配下に命じて、
周辺の警備に当たらせた。
警護は完璧だったが、石川五右衛門は腹部に
痛みが走る度に、あの少女であった娘を思い出させた。
自身よりも明らかに若い忍者に敗北した。
若くして、伊賀の一角を成す棟梁となり、
負けた事は初めてだった。
しかし、安心もした。あれほどの手練れが
清州城の守りについているのであればと。
五右衛門がそう思いにふけっていたら、
突然、殺意は感じられないが、また別の巨大な気配を感じ取った。
しかも、この気は馴染みのあるものだった。
まさか? と一度は思ったが、
いつの間にここまで成長したのかと
疑うほど強い気だった。
男は高き場所から己の気配を
広げて居場所を探ると、
無音の殺しの足運びを駆使して、
高い場所からその気の場所を探っていった。
五右衛門はその青年を上から見下ろした。
少年は足を止め、五右衛門にゆっくりと視線を送った。先ほどまで放っていた気配を殺していき、敵意の無い事を示してきた。
五右衛門は一閃の術印を使って、瞬きの間に男の前まで降り立った。
「久しぶりだな、甲斐ノ六郎」気を抜いて、五右衛門は話しかけた。
「ああ、もう数年になるな。さっきの気配からして、相当腕を上げたようだが、そこの屋敷にいる者の護衛をしていると言う事は、
隠密として信長に仕えているようだな」
伊賀と甲賀の忍者の中で、数える程しかいない友であった二人は、
お互いの成長ぶりを確かめあった。
伊賀忍者であった五右衛門は徒手武術を基本として、術印も使い、後の先を取って戦うのが得意な忍者であった。
その反面、甲賀忍者であった甲斐ノ六郎は、術忍者を得意とし、暗具と呼ばれる暗殺向きな武器を使いこなして、術と一撃必殺の武器で、命を奪う忍者であった。
二人は同じ歳であった為、子供の頃から競い合ってきた本音で話せる深い友であった。
「用向きは何だ?」石川は気軽に問うた。
「奴等の事を詳しく調べるよう命じられて、お前の事を思い出して寄っただけだ」
奴等と言われ、五右衛門の目の色が深くなった。「織田家にもいるが、10名ほどしかいない。どこを調べて来たんだ?」
「小田原、越後、美濃、南北近江、そしてここに来た。帰り道に三河や遠江を調べるつもりだ。だが10名は多いほうだぞ?」
六郎は眉を
「そうなのか。もうそこまで調べているとは流石だな。だが、調べがそこまで進んでいると言うことは……戦が近いという事か」
戦の
「そこでお前に聞きたいが、信長公はどうなさるつもりだ?まともに戦えば間違いなく負ける」六郎は心配そうな顔色を見せていた。
「信長様は我々でも計り知れない知略に長けたお方だ。数では圧倒的に不利だが、多くの布石を敷いておられる。降伏も籠城もせず、必ず攻撃を仕掛けるお方だ」
五右衛門はわざわざ聞いてきた事の意味を探った。「お前がそこまで言うとは、珍しいな。実は我が主から、ある事の判断を一任されているからこの地に寄った。五右衛門がそこまで言うのなら、賭けてみる事にする」
石川五右衛門には話がいまいち読み切れずにいた。自分の知らない所で、既に戦の話が出ている事を、その時初めて知った。
「真田十勇士、参戦致すと、信長公に伝えてくれ。それだけ言えばお分かりになる」
五右衛門は不思議に思った。今川、北条、武田は大原雪斎により三国同盟が結ばれたばかりであったのに対して、武田に仕える真田十勇士が味方するその意味を探れずにいた。
「では、信長公への伝言頼んだぞ。次は戦場で会う事になるだろう。ではまた会おう」
甲斐ノ六郎はそう言うと、そのまま道を歩いて行った。
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