第37話 織田信長
「俺は殿に詳細を伝えて指示を仰ぐ!
長可は蒼紫と共に桜を安全な場所に
移すよう手配してくれ!」
「何故! 再び殿の指示を仰ぐんだ?!
ここで桜を守るんじゃないのか?」
恒興は渋い顏を見せた。
「いいか、長可。我々が到着するよりも
早くお前たちは襲われた。つまりは我々が
殿と一緒にいた時には、既にどこかに
潜んで話を聞いていたはずだ。
時間差的に見てもあまりにも速く行動に
移したとなると、ここはもう危険だ。
いち早く動く必要がある」
長可は小刻みに頷きながら聞いていた。
「分かった。一旦、場所を……」
話の途中で恒興は長可の会話を遮った。
恒興は声を落として耳元近くで
「奴等はまだいるかもしれない。
俺が隠れ場所を知るのは危険すぎる。
忍たちの術によって暗示を掛けられたら
御終いだ。殿に指示を仰いだ後、
こちらから探る」
「しかし、どうやって探るつもりだ?」
「あの我々を助けた忍は、
名のある一流の忍者だ。織田家の忍者か、
あるいは他国の織田との縁を望む者に
仕える忍だろう。殿の配下ならもう詳細
は伝わっているはずだ。
そして、再びお前たちを必ず守る任務に
つく事になるだろう」
「分かった。それなら直ぐに動くとする。
新介の遺体の事も頼む。
必死に戦ったが……見事な討ち死にだったと
殿にお伝えしてくれ」
「ああ、しっかりと伝えておくから、
さあ、もう行くんだ」
恒興は夕日が落ちきていた闇夜を、馬に跨り首を返すと、清州城に向けて疾駆させた。
その間、厳しい顔つきをしながら、ある事を
考え込んでいた。
あの助太刀してくれた忍者は一体どこにいた
のだろうかと。敵の忍の数は30人ほどいた。
話を聞いていたのは、おそらくあの一番の
使い手であった上忍だったであろうが、
そうなるとあの忍にさえも気配を読まれない
程の忍の使い手と言う事になる。
主である信長は、昔、一度だけ忍にだけは
畏怖を感じた事があったと、酒の席で言葉を漏らされたことがあった。酒が入った故の言葉であったが、あの目は確かに思い出されておられた。
恒興は信長ほど知略に長け、尚且つ剛の者は知らなかった。戦略も謀略にも長けており、
瞬時に即断即決ができる英雄であり、英断
を下せる真の勇気ある者であると。
荒々しく見えるが、粗暴では無く、人よりも
遥かに速く答えに行きつく頭脳明晰で、
誰にも分からないが、誰よりも国を思う以上に、日の本を想う主である事を、恒興は信長に仕え始めて3年程であったが、長可や利家などと同じように知っていた。
信長はまだ12歳ほどの頃から荒小姓を集め、
将来に向けて、配下にし、鍛え上げていた。
素質を見抜き、その得意な力を磨かせて、
予想よりも速く大名になったが、皆、
信長の為なら命を惜しまない心を
胸に秘めて仕えていた。
夢母衣衆を味方につけた時に、信長は
考えたのだろうと恒興は思っていた。
主の考え等程遠い事くらいしか分から
無いが、明らかな強さと、我々とはまた
違う忠誠心は本物であった。
そして彼等は種子島の銃に改造を加えて、
連発可能な銃に直ぐにして見せた。
夢母衣衆のような者たちが、この日の本に
二百人ほどいる事知る前から、自らも恐れ
を抱く、忍の力が必要だと考えたと恒興は
思っていた。
あの忍はまだ公にはされていないが、
信長は夢母衣衆とはまた別に、特別な集団
を作ろうとしているのだと肌で感じた。
それほどまでに味方なのに、夢母衣衆とは
また違った恐ろしさが肌から離れなかった。
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