第36話 忍の戦
池田恒興はゆっくりと屋敷の奥まで
警戒しながら歩を進めると、
敷地内のどこかから
金属音がぶつかり合うような音が
聞こえてきた。
敷地内の兵士たちも皆、息はあったが、
頬を叩いても、起きない事から強い眠りに
入っている事を恒興は察して、恐らくは
森や毛利が戦っているであろう場所へ、
音を頼りに近づいた。
「新介!!」森長可の声が、恒興の耳を貫くように走った。彼は長可が叫んだ場所まで駆けた。そこには血まみれになった新介の首が落ちていた。彼の手には死しても刀を握ったまま、頭だけが地面に転がっていた。
「恒興! コイツ等、並みじゃないぞ」
普通に何の障害も無い動きをしている長可
を見て不思議に思ったが、直ぐに理解まで
到達した。吹き抜ける風が催眠薬を飛ばして
いたと。
長可と恒興はお互いの背を合わせて、前方の
敵にのみ集中しながら小声を飛ばした。
「真田は桜と一緒か?」長可はまず桜の安否を
尋ねた。「そうだ。様子が変なので屋敷の外で
待つよう伝えたが、あまり長いと様子を見に
来るかもしれん」長可は軽く頷いた。
長可の槍裁きは、利家や蒼紫よりも長けていて
槍を使い、忍者たちの刀を絡め取って刀を手放した瞬間に、意識を刀に向けさせてそのまま首
を両断していた。忍びの数は20名ほどであったが、既に10名ほどの忍者を倒していた。
恒興は長可と違い、槍は苦手であったが、
その分、剣術に長けていた。
彼が日本刀を構えて、一所懸命の構えを見せる
と、忍びたちの動きは止まった。威圧的なその
目には見えない闘志を敵に放つように、己の間合いに入れた瞬間に、まずは刃で無い方で首に
打ち込み、その反動を使って返し刀として、横の忍の首を刎ねてから、そのままの勢いを殺さずに素早く回転して、首に打ち込まれた忍の動きが鈍くなっているのを利用して即座に首を刎ねた。
それを間合いを空けて見ていた忍びは、口笛で
合図らしきものを吹くと長可と恒興の周囲から
一斉に退いた。
そして、最奥にいる忍者が口で何かを唱えながら両手で印を結び始めた。その他の忍者は皆、同じように呪印をし始めた。
マズいと気づいた時には、既に手遅れで、二人はカマイタチのような切れ味を持つ台風の目の中にいた。それが徐々に狭まりを見せ始めた頃、その他の忍が次々と呪印から来る火炎球を
投げつけだした。
火炎の竜巻は二人の
死の訪れをじっと見ていた為に、部外者である男の気配に気づけなかった。
その者は直ぐに危険を察知し、封印術の呪印を誰よりも素早く結ぶと同時に、高々と上がっていた火炎竜巻を消し去り、圧倒的な速度で、忍者たちの頭に苦無を次々と命中させていった。
二人に対して一瞥だけし、命のある事だけ確認すると、そのまま更に加速して、小隊長の上忍に向けて真っすぐ突っ切った。
忍び頭であろう忍者は、両腕の籠手を十字に交差させて首から頭にかけて守りに入った。即座にその意味に気づいたが、その男には無関係だった。
横から振るった刀に血が滴る前に、光速で薙ぎ払った。
上忍は斬られた事に直ぐには気づかなかった。
振り返ろうとして、斬られた事に初めて気づけた。「馬鹿な……」振り返り様に上半身が地面に落ちる前に一言だけ発して、ズレるように
地面に落ちていった。
配下の忍者たちは唖然とした。着込みの上から上忍が斬られた事により、
動揺が生まれた。
男はそれを見逃すはずも無く、刀で以て刀撃を受けようとすれば、
そのまま刀ごと斬り捨てられ、次々と成す術も無く倒れていった。
格の違うその男は、風に乗って鉄の臭いが漂う辺りの恐れる
気配を探ると、長可と恒興は、礼の言葉を出す前に、
男は何も言わず、呪印によりその場から消え去った。
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