第32話 桜の話
信長は既に部屋で待っていた。茶を煎じさせて程よい
ぬくもりを感じるほどの味を愉しんでいた。
そして利家を見て頷いた。
この前は広間だったが、襖を閉められており、
三人が中に入ると外へ通ずる襖も閉められた。
部屋にいるのは、信長とその正妻の帰蝶、そして
利家と小姓が一名、真田蒼紫と桜だけであった。
「用向きは既に聞いておろう。
その桜と申す娘に用があるのじゃ。昨日の一件の様子から
その娘は何か知っておるのは分かったが、こちらは何も
分かっておらん。知ってる事を話してみよ。今は其方が
織田家の命運を握っている」信長はじっと見つめていた。
すーっと小姓が茶を差し出してきた。
桜はそれを両手で取り、ゆっくりと飲み、喉を潤した。
隣の蒼紫の顏を見た。彼は頷いた。二人は言葉は無くても
お互いの心を察した。
「わたしが知っていることは……わたしもあの人たちも
未来から来たことだけは確かです」
皆が桜を唖然とした表情で見つめる中、信長だけは真剣な
眼差しで彼女を見つめていた。
「続けて話してみよ」信長の顔つきを皆が見て、
唇を噛むように口を閉ざした。
「わたしが今までに合った人のほとんどは
記憶がありませんでした。自分の名前すらも知らない人も
いました。わたしのように記憶がある人は極僅かしか
いませんでした。あの夢母衣衆と呼ばれている方たちが、
なぜ過去に来たのかは知りませんが、この時代でいうと
非常に強い方々です。戦いに関しては優秀な中でも更に
優秀な人たちで、未来ではエリート部隊と呼ばれています」
前田利家や織田信長は直ぐに理解した。二人とも彼等の
強さを知っていたからだ。
「わたしたちは過去である今の時代に起きた事が
本当なのかどうかを調べにきました。でもあの人たちは
わたしたちとは目的は違います。ただ言えるのは、
あの人たちはもっと沢山来ているはずです。わたしたち
のような人たちは大勢来ています。わたしたちを調べに
きたのなら数百人規模で日本全土に送られたはずです」
信長や利家の顔色が一気に変わった。
「あのような者達が数百人もいると言うのか?」
「はい。未来には何百万人もいますが、その中でも
彼等は特殊な任務につく人たちなので特別強い人たちです」
「其方が聞いた義元と雪斎の会話も関係があると思うか?」
桜は何かを考え込む様子を見せた。
「あの人たちが来ているのなら無関係では無いとおもいます。
わたしたちよりも前に来た人たちは誰も帰って来れませんでした。そこで国の管理下になって安全性を高めて、多くの改良を加えて、わたしたちは来たのです。でもあの人たちが来てる事は
知りませんでした。何か問題が起きたのだろうと思います」
利家や小姓は何とも難しい表情をしていたが、信長は違った。
帰蝶は話にはついて来れていたが、悩ましい顏を見せていた。
「つまりはお前たちは我らに何が起こるのかを
知っておるのだな。そして新たに予定外の戦に長けた者たちが
来たという訳か……それに加えて雪斎の不老長寿の話か……
なるほどのぅ」
皆が信長を見つめていた。途方も無い話を初めて聞き、
瞑目しながら、それに対して疑いを持たず、
桜の話から信長の頭の中では一手一手詰みに行くように、
話を繋げていっていた。そしてひと時の間をおいて開眼した。
「相分かった。桜よ、お主には護衛を付ける。
蒼紫よ、其の方は桜の護衛隊長として働いて貰おう。
配下にはまだ若いが、余の側近をつけてやろう」
信長は小姓に名を告げると、小姓はスーッと下がると一礼して、
その場から去って行った。
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