第31話 夢母衣衆と桜
清州城に辿り着いた真田蒼紫と桜は、使用人付きの屋敷を
与えられ、何不自由無く疲れを癒す為に3日間与えられた。
そして今日が改めて織田家の配下として、織田信長と会見
する日だった。案内役には信長の自慢の若武者部隊である
赤母衣衆の前田利家が正装で迎えに来ていた。
「前田殿! お待たせして申し訳ございません」
「早く致せ。殿がお待ちである」利家は静かに申し付けた。
「桜! 前田殿が既に来ている。急げ!」
屋敷の奥から肩を落として、顏を落としたように下を向いて出て来た。
「どうした? どこか具合でも悪いのか?」馬上から尋ねた。
「いえ、元気はあるのですが……何かは分かりませんが
昨日からこの調子でして」蒼紫は桜に顏を向けた。
「ふむ。日を改めたいのなら、私から殿にお伝えするが……」
「いえ! もうだいじょうぶです」桜は顏を上げた。
「分かった。では参るぞ」蒼紫は与えられた馬に乗ると、
手を差し出して桜はその手を握ると、フワッと後ろに軽い
足取りで乗った。
真田にはどうも腑に落ちない点があった。
己は力を示して仕官する事は決まったが、桜に関しては
何もせずに、自分と同様に取り立てられた。
夢母衣衆を見てからの桜の様子が変だったのは気づいていた。
全ての答えはあの者達と関係があるとは思ったが、
武器も特殊で、明らかに武術に長けている者達との接点は、
蒼紫には知り得ない事だった。
それを考えながらゆっくりと利家と共に清州城に向かっていた。
その間、桜は蒼紫の背中にしがみつくように、
ピッタリとくっついていた。不安から蒼紫の背中をしっかりと
握る強さは痛みが走るほどであったが、
そのまま城まで辿り着いた。
馬屋番に馬を預けると、利家の後に続いて二人は歩き出した。
桜の様子から、真田は前田利家にそれとなく尋ねてみた。
「前田殿、今日は信長様にご挨拶するのが
目的では無いのですか?」その声で利家の足が止まった。
利家は振り返ると、「殿のお考えは我らには計り知れぬが、
恐らくはその娘に用があるのだろう」桜に目をやった。
「昨日見た夢母衣衆を見たであろう。実はあの者達には
手を焼かされたが、我らの忍が捕らえた者達だ。問題は
自分の名前は憶えているが、それ以外は一切記憶が無い
事だ。殿は昨日のその娘の態度から、何かを知っている
と申された。別段何かしよう等は無い。
ただ話を聞きたいと仰られた。危害等の心配は無用だ」
桜の力がゆっくりと抜けていくのを蒼紫は感じた。
そして再び三人は歩き出した。
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