第26話 不老長寿の大原雪斎

「殿。マズい事態になりました。

夜叉忍たちの死体と使用人以外、

すでに逃げ去った後のようです」


「師よ、あの会話から不老長寿の話へは

辿り着けぬでしょう。特別問題は無いように思われますが、

何を恐れておられるのですか?」


「これは一種の古の術の1つです。

しかし、それを知る者は僅かしかいません」


「私も師より、不老長寿の術をお教え頂きましたが、

敵に恐れを覚えさせるだけであって、

利になると思いますが」


「敵には殿の仰る通りでございます。

しかし、武田や北条にこの話が漏れたら、

どうなりますかな?」


義元は暫く考え込んだ様子を見せた後、口を開いた。


「この古の術を教えろと来るか、

我々今川家を物の怪の類として討伐に来るかになります」


「その通りです。しかし、今はまだバレてはおりますまい。

逃げた二人は今川と同盟関係にある武田や北条方面には

逃げませぬ」


「師よ、話はよく分かりました。

確かにほっとく訳にはいきませぬ」


「その通りです。奴らが逃げた方向は、

我らにとっては都合のよい地です。

武田も北条も古の術を知らない限り、

何の疑念も持ちませぬ。

そろそろ頃合いかとも思っていた矢先ですし、

この機会に西進の話を進めましょう」


「この秘術は知った所で、

術式を知らねば意味はありませぬ。

全軍を持って、まずは織田に攻め込みましょう」


「分かった。師よ、準備は任せます」


義元はその場から立ち去った。


「これ、誰ぞ参れ」


大原雪斎が用心の為、

天井裏や周囲に夜叉忍を配置させていたが、

誰一人として来なかった。


「誰かおらぬか!」怒声を上げて大原雪斎が叫ぶと、

小姓たちが駆けつけてきた。


「兵士を使って周囲を調べよ!

夜叉忍はどこにいったかも調べるのじゃ」


「はッ」小姓たちは兵士と他に配置されていた

夜叉忍を使い、周囲を調べ上げた。


ほんの数分後に、小姓は駆け込んで来て報告した。

「夜叉忍の報告では、

裏天井もこの周囲の全ての忍は、殺されているようです」


「何だと?! 分かった、下がれ」

雪斎はすぐに分かった。何の気配も感じさせずに、

上、中忍を声も出させず殺す事の出来るのは、

飛び加藤か、服部半蔵か、

風魔の小太郎か石川五右衛門だと。


「北条に知れたとすれば、織田攻め等、

夢のように散ってしまうわ。

緊急的に急がなければならなくなった」


古の術を教えろと言われる前に、

出立するのは難しいと考えた。

大原雪斎はすぐに密かに、佐竹に書状を送り、

後方支援する故、攻める時は今しかないと言って、

北条に佐竹をぶつけるよう手を打った。


———————————


二人はその頃、長篠を問題なく通過して、

既に織田領に差し掛かっていた。


「ねえ! 何故なの? 不老長寿なんて本当に出来るの?」

「俺も最近までは知らなかった。身分が低かったから、

入れない場所も多くあったからな。

だが、古文書にそれらしい事が書かれていたが、

有り得ないと思っていた」


「じゃあ、大原雪斎は何歳くらいなの?」


「分かんねぇが、100歳は軽く超えているのだろう。

戦の時は顏は見えないようにしてるしな。

だがな、簡単に出来るもんじゃねぇはずだ。

今川家の関所は他国に比べて多い。

領土も広いが、理由はそれだけじゃないはずだ。

相当数な犠牲が必要だろうな」


二人は織田領に入り、見回り部隊の黒母衣衆に捕まった。

真田は既に、知れた名の武将であった為であったが、

敢えて抵抗もせず、

捕まったのは織田家に力を貸す為でもあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る