第25話 大原雪斎の謎

「ねぇ、何が分かったの?」

「桜、大原雪斎の年齢を知っているか?」


「知らないけど、関係あるの?」

「ああ、大問題だ。俺は最近その事に気づいて

密かに調べていたが、雪斎様は歳を取る度ごとに

強くなる」


「まあ雪斎は秘伝の術を扱う者故、

そういうものかと思っていたが、

それは間違いだった」


桜の形相が変わった瞬間を、

真田は見逃さなかった。

すぐに刀に手をかけると、

そのまま桜の視線の先へと

背後を見ぬまま刃を振るった。


三度それを繰り返し、真田は桜の元まで身を退いた。


「やはりおりましたか。

さあ、ご一緒に来てください」

桜は震えていた。

「この娘と俺は知り合いでな。そっちが退け。

言い分は殿に直々に話す」


「これは義元様直々のご命令です。

真田様には御関係の無い事。何も聞かれず、

その者をこちらへお渡しください」


「俺を殺せたら連れていけ。

その気が無いなら今すぐ帰れ」


「まさか私が出る羽目に貼るとは

思いもしませんでした。

真田様は誠に得意なのは槍では無く、

剣術のようでございますな」


夜叉忍頭が言い終わる前に、

蒼紫はその剛刀を振るった。


老人の恰好をした忍びは、

杖でその振るわれた刃に対して振り抜いた。

仕込み杖の鞘の役目を果たしていた木は

お互いの刀撃の鍔迫り合いで、脆くも下に落ちた。


その夜叉忍の刀の先が、

曲って真田の手に突き刺さろうとした。

蒼紫はすぐに飛び下がったが、忍びは追撃してきた。


畳を刀で突き刺して、身を守ろうとしたが、

忍びはその畳の上から刃で貫いた。


真田は既に畳に刃で盾の役割を果たすかのように、

畳を返したが、それは違った。

彼は畳を返して夜叉が、畳を貫くであろうと思い、

わざと畳に刀を突き刺すようにして、

奴が畳に妖刀を突き刺した時には既に、そこには居なかった。


刀で貫かれた刃を見て、忍び頭は畳の裏にいると

思い込まされていた。

真田はサッと飛び上がると、

忍び頭の顔面を掴むと畳に叩きつけた。

そして、小太刀で体に突き刺し、

動きの取れないように畳まで突き通した。


忍びは死を覚悟したのか、すぐに服毒して死んだ。


ひとまずは他の者の目に触れぬよう、隠し部屋に隠して、

畳も隠し部屋のを使って何事も無かったようにした。


一仕事終えたように、汗まみれになった蒼紫は、

桜に何を聞いたのか、その詳細を話させた。


事前に聞いていた通り、決して死なないと

確かに言ったのか確認を取った。

蒼紫は独自に調べていた事と話が繋がった。

彼が調べている中に不老長寿の話が出ていた。


その話を聞いて直ぐに真田は立ち上がり、

「ここにいてはまた襲ってくる。逃げる支度をしろ」


この忍びは妖刀使いだった。たまたま地の利があった

から勝てたが、次は人数を増やしてくるはずだと

蒼紫は思った。


この国と同盟を結んでいる北部の武田、東部の北条は

避けなければならない。西に行くしか無かったが、

真田はルートを長篠にして、そこから北西すれば

斎藤道三の治める美濃があった。


その道しかないと思い、金子を多めに持って、

蒼紫と桜は駿府城から逃げるように立ち去った。


男は今は逃げるしかないと即断した。

道中の間に、大原雪斎の事は考えればいいと

思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る