第24話 今川家の秘密を知った真田

「ごめんください」


老人に変わった忍者は、猫背でどこにでも

いそうな老人にしか見えなかった。


屋敷の管理人が玄関まで出迎えに行った。


「何か御用でしょうか?」


長くて白くなった顎鬚あごひげを撫でながら

老人は尋ねた。

「ここは真田蒼紫様の御屋敷に間違いございませぬか?」


「はい。そうでございます。

一体どのような御用でしょうか?」

「知り合いの孫娘がこちらに伺ったとお聞きしましたので

迎えに来ました」


「はて? この屋敷には私と使用人以外は

主しかおりませぬが…」


「はてはて、確かに真田蒼紫様の御屋敷に行ったと

伺ったのですが、このくらいの背丈の孫娘なのですが、

お見かけしておりませぬか?」


手で145㎝ほどの孫娘と称する桜の背丈を管理人に見せた。


「この屋敷には来ておりませぬ。誰かが見ておれば、

私の耳に必ず入ります。他の御屋敷だと思われます」


今川家代々継いできた夜叉忍は、

真田蒼紫なら必ず知っていると思った。

「そうですか。それはご迷惑をおかけしました」


「御孫さんも宿にお戻り中かもしれません」


「確かにそうですな。ひとつお願いがござるのですが……」

村への手土産として、名高い真田蒼紫様に一目、

お目にかかりたいのですが……」


管理人は眉を寄せて見せたが、

「主にお聞きしてまいりますので、ここでお待ちくだされ」

「わかりました。ありがとうございます」


そう言うと老人は玄関の段差がある場所に腰かけた。


夜叉忍頭は管理人が立ち去った後、

すーっと耳の上のほうにある

蟀谷こめかみに二本指を当てて口には出さず、

配下たちに伝心の術で連絡を取った。


(どうだ。誰か見つけたか? 

見つけた者がいるなら返事を返せ)

(………………誰も見つけてないようだな)

(ここに入ったのは間違いないのか? 隼人?)

(それは間違いありませんが、見つからないという事は、

一杯食わされた可能性もあります)


(屋敷の中を通り抜けてどこかに行ったという事か)

(はい。その可能性もあるかと)


(もう一度、各自、用心して調べろ。

それでも見つからない場合は調べる場所を変える。

俺はこれから屋敷の主である真田殿に合う。

心が乱れる様子を見せたら、桜はここにいるはずだ)


「御老人。真田様がお会い下さるそうで、

茶と茶菓子を御用意致しますのでお上がりください」


(招き入れるという事は、やはりここでは無いのかもしれん)


「御老人。拙者が真田蒼紫でござる。

丁度稽古も終わった所でしたので、

休息を入れようかと思っていた矢先でした」


真田はいかなる時でも、平常心を失うことは無かった。

自信に満ち溢れ、疑いの視線も一切無く、老人と共に

茶を飲みつつ、世間話をして帰させた。


(ここでは無いようだ。ここを起点として東西南北に

散って探し出すぞ)


忍びの気配が完全に消えたのち声をかけた。

「桜、もう大丈夫だ」

隠し部屋に隠れていた桜は、恐る恐る出て来た。


「隠し部屋の入口はそこだけだ。奴らは天井裏や屋敷の下を

調べたのであろう。

先ほどの老人が忍者だとは到底思えぬが……」


殺気も一切無く、

視線の先なども一切ずらす事も無く、

弱々しいが堂々とした態度であったからであった。


桜に聞いていなければ、全く気付かないほどだった。

「一体何があった? 何故追われる羽目になったのだ?

あの老人が忍者だとすると相当な使い手だ」


「義元様と大原雪斎様の話を聞いちゃって……」

「それは追われるはずだ。内容動向では無くても、

というか、よく忍び込めたな。

特に雪斎様に気づかれないとは……」


真田蒼紫は分かりかけてきた。

「桜。二人の会話で何かれたら

ヤバい話を聞いたのか?」


「ううん。特に重要な話はしてなかったの」

「どんな話をしていたか覚えているか?」

「うん。覚えてるよ」

「いいか。よく思い出して見て不自然な会話は

無かったかどうかよく考えてみろ」

桜を落ち着かせる為に、暖かい茶を差し出した。

少女はそれを飲みながら、ゆっくり考えている

様子を見せた。


「あ、アレかな?」

「どんな事を話していたのだ?」

「義元様が雪斎様に言ったの。色々まだまだ教えを

乞いたいから死なれては困りますって」

「どこが不自然なんだ?」

「その後、雪斎様が言ったの。

自分が死ぬ事は決してないって」


真田は桜の言葉で深々と考え込んだ。そして確信を得た。


「自分が何故、追われたか分かるか?」

「警備網を破って侵入したからじゃないの?」


「ああ。それだけじゃない。雪斎様は恐ろしいほどの邪気を

はらんだ御人だ。あの方には特別な力を感じてやまない。

問題は御歳のことだけだ」


桜には何の事か分からなかったが、

真田が冷や汗をかいている事から、

何か恐ろしいことが起こるのではと思い、不安になった。

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