第19話 織田信秀出陣

「どういうことだ? 説明せい」

浜松城に入った織田信秀は丹羽長秀の直臣である

溝口秀勝に現状報告をさせていた。


「はッ! 柴田勝家様は撤退、

河尻秀隆討ち死にございます」


「勝家の相手は何者だ?」

「今川家の客将となっている武田信虎にございます」


「ふん! 勝家は敵将を何人討ち取った?」

「討ち取った武将はおりませんが、

重症を負わせた武将は多数にございます」


「その中に岡部兄弟も入っておるのか?」

「はい。二人とも重症を負い、戦える状態ではありませぬ」


「長秀はどうしておる?」 

「先陣と中軍の兵をまとめあげ、再配置中にございます」


「勝家は随分と戦ったようじゃのう。名古屋城へ帰還させよ」


「わしが前線に出る。長秀にそう伝えよ。奴めは常に何か

策を練っておる故な」

「分かりました! 失礼致します」


信秀は勝家の働きで、

今川家の主力を全て使い物にならなくした。

ならば、大将である自分が兵を率いれば、

敵陣営はすぐに崩れ、

その勢いのまま浜松城を制圧できると考えていた。


織田家の家老である丹羽長秀も、

兵をまとめて再配置していると

聞いて、信秀と同じ事を考えているのだと思った。


信秀は出陣の支度をして、城内の広場に出た。

そこには丹羽長秀の姿もあった。

「長秀!? お主何故ここにおる?」


遠い位置にいた長秀は、馬に乗ったまま近づき、

信秀の近くまで行くと馬から下りた。


「殿。我が軍の被害は勝家殿のおかげで、

最小限にとどめております」


「先陣と中軍の兵士は合わせて五千名おります。

報告によりますと、敵軍の被害は甚大で、

大将大原雪斎以外の武将は数名しかおらず、

兵士の被害予想は残りは三千名程度のようです」


信秀は鋭い視線で長秀を見た。

丹羽長秀は信秀の顏を見て頷いた。


「やはり、お主も同じ考えか」

「はい。浜松城を取る絶好の機会かとおもわれます」

「浜松城の北にある長篠城はどうする?」

「浜松城と犬居城と連携して初めて活きる城故に、

此度は一番重要な浜松城を確実に制圧するのが良いかと」


「お主の策は出陣前に話した通り実行するのか?」

「はい。あの者達は、役立たずかと思いきや、

何かしらの能力に秀でている者達が多数います」


「どんな才能を秘めているのか、調べるには

丁度よい機会かと思われます。

まだまだ赤子同然ですが、才能故か、伸びしろが

予想出来ぬほど、日々それぞれ育っております」


「分かった。あの10名の者達はお主に一任する。

新たに分かった事があったらまた報告せい」


「はい。浜松城でご報告致します」

長秀は笑みを浮かべた。


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