第17話 予見の豪雨

光秀は斎藤利三と、兵二千をそのまま古渡城に入れて、

自身は数騎を供にし、稲葉山城に戻っている途中だった。


空からポツリポツリと雨音が兜を叩いた。

光秀は再び空を見た。大きな雨雲がもう己の上に来ていた。


川まではまだ距離があるなと、心の中で思いながら

僅かな供とともに、先ほど通った川まできた。


天気を当てるくらいなら、

農民にもよくいるものだと思ったが、

本来の光秀は強情では無かった。

そして彼は非情に用心深い男だった。

あの予言者めいた者の事を考えると、嫌な空気の味がした。

そのまま南の浅瀬に向かって移動し始めた。


光秀は城内に入ると、甲冑を脱ぎ、

体を洗うと正装に着替えると何とも言えない顔つきで、

道三の元へ向かった。


「只今戻りましてございまする」

道三はすぐに異変があった事に気づいた。

光秀の声に微妙な、

まるでため息をつくような声だったからだった。


「何があった? 申してみよ」

「大した事ではございませぬ。

ただ、あの何の役にも立たない者が

晴天な空に対して、雨が降ると申しただけです」


道三の顏も妙なものを見るような顔つきに変わった。


「その者の言う通りになったのか。光秀、

それは確かに妙な話だ。その者を連れて来い。

直接話を聞こうではないか」


「あの者は死にました。他の者も大勢殺されました」


「死んだか……残した10名の者たちは、

それぞれ違う力というべきか、

何とも言えぬものを持っておる。

逆に何の役にも立たないものもいたと、

思い込んでいたようじゃ」


「800名の一二三を我が領土に散らして、探させよ。

特異な体質の一族か何者かは分からんが、

今は織田と今川が戦っておる故、隅々まで探させるのじゃ」


「分かりましてございまする。私も捜索に加わります」即座に光秀は申し出た。


「では竹中重矩を連れてゆけ。

あの者に勝てる者はそうはおらん。

よいか、用心してかかれよ」


「はッ! 行って参ります」

明智光秀は立ち上がると、

道三の警護に当たっている

一二三に手で合図を送ると、

姿と気配が一瞬にして消えて行った。


光秀が旅支度をして城内の広場に行くと、

そこには既に竹中重矩と、

800名の一二三が集結していた。


光秀は20名の上忍を自分の供につかせて、

他の忍者には各城は勿論、

隠れ家となる生い茂る森々や、

廃屋、全てを調べて隠れ家だけ見つけたら

手は出さずに戻るよう命じた。


「ゆけ!」光秀の言葉で彼らは城門もくぐらず、

稲葉山城から姿を消して行った。


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