第16話 一二三部隊と増え続ける新兵たち

「こちらが大原雪斎よりの書状でございます」


「ふむ。信秀はまた戦か、勝家に手傷を負わすとは

まだまだ使い物になるのぅ。あとは……ん?

古渡城から平手正秀が撤退しただと?」

道三は首を傾げながら、納得のいかない顏をした。


「まあよい。前の借りがあるからのぅ。あい、分かった。

雪斎に蝮が噛みつくまで長生きせよと申しておったと伝えよ」


「ははッ! 必ずお伝え致します」


道三は今川の使者が立ち去るのを見ながら、

ある事を考えていた。

それは道三の領土内に、

どこの手の者か分からない者たちが

最初は1人や2人程度であったが、

どこの国の者か調べる為に隔離していたが、

ここ最近で100名ほどにまで増えていた。


強くも無く、多数でも無いが、

何故か斎藤家の表には出してない

情報などを知っている者もいた。


何の役にも立たない者達もいたが、

自由を与えるのは危険だと道三は考え、

関所の守りを敢えて緩めて、

伊賀の忍者を千名ほど雇い、自国に入った者達を

一二三ひふみ部隊❞と名付けて、諜報や暗殺、

その他に、この不可思議な者達を捕らえる為に使っていた。


そして強くも無く、知も無い者たちに

足軽の軽装備をつけさせて、

大原雪斎との約定の為に、明智光秀と直臣の斎藤利三に兵2千を与えて、この何者か分からない90名の者達を、

つけて古渡城へ進軍させた。


明智光秀はまだ少年に近いほどの青年であったが、年齢に見合わないたぐいまれなる才能を秘めていた。

直臣であった斎藤利三も

優秀な光秀の直臣として、才能を開花させていた。


この時、晴天であった為、光秀は最短距離である川を渡って進んでいた。

しかし、90名の者の中の一人が「戻る頃には大雨が降りますので、帰りは遠回りして浅瀬をわたるのが、賢明にございます」と言った。


光秀も利三も空を見たが、怪しい雲行きでも無かった為、そのまま古渡城まで行き、攻城戦を仕掛けた。

雪斎の言った通り、明かに士気は低く、平手正秀は

居ないと光秀は判断すると、

全軍突撃の合図を出して一気に攻め込んだ。


古渡城には、外交や内政に長けた村井貞勝がいたが、

柴田勝家の敗走を聞き、平手正秀は城兵の多くを引き連れ、

援軍に向かった直後だった。


若き光秀は、城兵が殆どいない事を見抜き、

見事な采配で城を落とした。

村井貞勝は数騎の供を連れて、

光秀とは反対側の南門から東へと逃げていった。


斎藤軍に犠牲者は僅かであったが、

90名の者達の多くは死んでいた。

雨が降ると言っていた男も無残な姿を晒していた。


光秀はその死体を見て思わず空に目を向けた。

遠方であったが、

そこには確かに雨雲らしきものが近づいていた。




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