第12話 鬼の柴田と呼ばれる所以
「丹羽様、もう柴田様は前線に御着きした頃でありますか?」
「そうだなぁ。柴田殿はおそらく着陣して間もなく
攻めるだろうな。我らも進軍速度を上げたほうが良いな」
「分かりました」河尻は後方に合図を送り進軍を速めた。
「柴田殿は非常にお強いお方なのは、今川勢にも伝わっておるが、お主は何故、柴田殿が鬼柴田と呼ばれるようになったかその
「所以でございますか? ただお強い方だから、
そう言われるようになったのでは?」
「多くの者がお主と同じように思っているが、
それは間違いじゃ」
「では何か理由がおありなのですか?」
「うむ。あの方は最前線でいつも戦われておるが、
いつも傷ひとつ負わずに凱旋を上げてきたが、
今川家の大将は鵜殿長照、長持の両名だった。
柴田殿なら傷など負わず、
我が織田家の勝利で終わるはずだった。
二人を相手にして、分が悪くなった奴等は自分の陣地に
逃げ出した時に、勝家殿からは死角だったのか、太陽が邪魔したのかは分からぬが、敵陣から一矢が放たれ、
大きく弧を描いて柴田殿の胸に矢が命中した」
河尻の息子は真剣に話を聞きながら進軍していた。
「勝家殿はそのまま馬を回して、鵜殿たちが守る陣地に突っ込んだ。三千近くいた敵陣にいたにも関わらず、
鵜殿長照と長持の首を取り、残った敵兵は逃げ出し、
陣地を制圧した。それからよ、
鬼の柴田と呼ばれるようになったのは……
あの時の柴田殿はまさに鬼そのものじゃった」
丹羽長秀の険しい表情を見て、
味方さえも恐れさせたのだと感じた。
「見えて来たのう。やはりすでに攻勢に出た様子じゃ。我らも
加勢するぞ! 我らの事を知らせる法螺貝を吹け」
戦場に向かって大きく法螺貝が鳴り響いた。
「先陣に加わり敵を殲滅させよ!
このまま敵陣まで押し切るぞ!」
中軍の到着により、形勢は変わろうとしていた。
しかし、柴田勝家は微動だにせず、馬上にただ跨っていただけだった。
元信と真田は、勝家の背後にいて、いつでも襲える状態にあったが、ただならぬ殺気が、その心を打ち砕いていた。
「敵の増軍も来ました。一旦陣まで退きましょう」
真田はそう言いながらも、勝家の背中が大きく見えるほどの
圧力に屈しないよう精一杯、元信だけでも逃がそうとしていた。
そして丹羽長秀と、自分が討ち取った河尻秀隆の息子が、
中軍にいる事を知っていた。
その軍がもうあと僅かで、ここに辿り着く事に焦りを感じた。
既に先陣の岡部正綱の軍は敗走し、退却していた。
元信の軍勢も、柴田勝家の軍だと知っただけで、
浮足立っていた。
「岡部様! 一時退却しましょう!
これでは勝負になりません!」
何とか元信に逃げてもらおうとしていたその時、
味方の援軍の法螺貝が力強く鳴り響いた。
相手が柴田勝家だと知っていた今川勢の士気も、
高まりを見せていた。
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