第13話 激闘
気勢が明らかに上がった今川軍の援軍に
真田は驚きを隠せなかった。
岡部元信が、例外である松平家を除けば
今川家最強の武将だと真田は思っていた。
しかし、敗走に次ぐ敗走で士気は激減し、
前線であるこの陣も捨てる事になると思っていた。
一騎の武者が堂々と馬足を速める事無く、近づいて来た。
見た事も無い赤い甲冑を
悠然と血の痕を残す勝家の前で馬足を止めた。
少し離れて左右に、朝比奈信置と朝比奈泰朝が
柴田勝家を包囲するように回りを固めた。
その赤い侍が真正面から勝家に対して槍を突きつけた。
ただ突きつけただけであったが、何とも言えない力を
蒼紫は感じていた。
男は真田を見ると頷いて、視線で元信を連れて本陣
まで行くよう命じた。
草葉の陰で隠形の術を会得した桜は、こんなの無理だと
内心で思いながら、流れを見ていた。
彼女もまた、あれから育成の仕方を教えてもらい
急速な成長を果たしていた。
男友達はまだコツを掴めないようで右往左往していたが、
こんな場所で前向きに戦う姿勢を見せる真田に対して、
好意さえ持ち始めていた。
真田蒼紫は、戦意喪失した岡部元信を伴って、配下たちが
陣幕を張り、拒馬の柵を作り上げている陣中に入って行った。
柴田勝家は
ゆっくりと馬上に滴り落ちる血を見ていた。
赤武者は左右にいる朝比奈を見たが、首を横に振るだけで、
状況が掴めない状態だった。
赤い甲冑の信虎は勝家という武将の名は噂では聞いていたが、
実際に見て見た感想は、噂に
大原雪斎からも勝家を撤退させてほしいと頼まれたが、
殺して欲しいとは言わなかった理由が、
信虎は分かった気がした。
織田軍の中陣が陣幕を張り始めたのが、遠目に見えた。
このままでは数で劣る上に、
劣勢に立たされると瞬時に信虎は
長年の戦の経験から分かった。
士気というものの大切さを、彼は嫌と言う程味わって、
今川家の客将として駿府で何不自由無く暮らせていた。
信虎の中にもそろそろ逝っても良かろうと言う程、
あらゆるものに触れて来た。物や人、そして心。
命を懸けて勝家を討ち取れば、
これ以上の天からの褒美は無いと思い、覚悟を決めた。
「我が道を進む為、最期の仕上げに、お主の首を頂こう」
突き出していた槍を戻して、
勢いを高める為に槍を振り回しながら、
片手で手綱を操り、渾身の一撃で様子を見る為に、
首を刎ねる勢いで、
喉元に、激流の勢いの如く槍を振るった。
勝家はいつものように防ごうとしたが、
あまりの威力に、己の槍先が自らの頬を掠めた。
そして名槍の刃に血をつけた。
先ほどとは違い、不意打ちでも無い一撃で、
勝家は正気を取り戻した。
まだまだ面白い奴らがおるわと、
命懸けの戦いに対して、久しぶりに愉悦を覚えた。
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