第11話 鬼となる柴田勝家

真田の会心の一撃は、勝家を馬上から降ろす為、

胴に対して、横に薙ぎ払った。


柴田はその一撃を、槍を縦にして片手で防いだ。

渾身の一撃であったが、ピクリとも動かず、勝家は笑みを浮かべた。


真田は槍と槍を合わせた瞬間に、恐ろしいまでの

剛力を感じ取った。


決して動かせないと思い、攻勢に出られたらと、

死と直結する、今までで初めての感情が溢れ出した。


正綱と真田の二人がかりでも、まさに鬼のような一撃を

防ぐだけで精一杯だった。


「ふん! 雑魚めが!」と言って、横にした槍で防御の構えを取った正綱は咄嗟に両手で槍を握った。


勝家の一撃で、正綱の槍は折れて、その防御の姿勢のまま

馬上から大きく吹き飛ばされた。真田は一瞥し、生きている

事を確認すると配下に命じた。


「正綱様は任せたぞ! お逃げ下さるまでは俺が止める!」


真田は今まで全く本気では無かった勝家に対して、

最期の時を感じた。そして最後になるであろう、

攻勢の姿勢を取って、再び、激しい闘志を燃やして

己から攻め上げた。


真田の全力の攻撃に対して、勝家は不満を露わに出していた。


「ぬるい、ぬるいわ!! 貴様もその程度か?

どいつもこいつも揃いも揃って

この勝家の相手を出来る者はおらぬのか!」


真田の槍は真っ二つにされた。普通なら逃げるのに対して、

即座に、馬の手綱を引きながら馬尻に蹴りをいれて、馬を大きく嘶かせて前足を高々と上げさせた。


勝家は馬の蹴りを警戒して騎乗馬を後退させた。

蒼紫はその馬の死角から、二つに割れた棒を勝家の顔面に向けて投げると同時に、刀を抜いて胴に横から斬りつけた。


真田は舌打ちをした。鎖帷子を着込んでいたからだった。

同時にこれほどの強さがあるのに、着込みをつけている

用心深さは敬意に値した。


「お主は、他の者とは違うようだのぅ。我に相対し戦意を失わず、攻勢に出るとはやりおるわ」


「最期に何か言い残す事はあるか?」


「油断大敵」


「ん? それが最後の言葉か?」乱戦中で土煙を上げて

戦っていた為、勝家は気づけなかった。


しかし、真田は分かっていた。十分に時間を稼ぎ、

正綱が伝えたであろうその漢が来る事を。


真田が馬を疾駆させ、再び刀を横に構えた。


勝家は足や付け根を狙って来ているのかと考えたが、

既に勝負は決していて、

手傷だけでも負わせようとしているのだと思った。


しかし、何とも不可解な事過ぎて、

勝家は近づけまいと槍を構えた。


蒼紫は勝家に対して刀を投げつけた。

勝家がその刀に目を奪われている間に、

気づけなかったもう一騎の侍が、

槍を下に払った隙をついて、

勝家の頭部に一撃を放って、そのまま通り過ぎた。


柴田勝家の兜は割れて、眉間の上から滴り落ちる血が、

鼻先まで伝っていき、己の血を味わった。


やや離れた場所にいた真田と元信は、

殺気を放つ鬼をその肌で感じた。

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