第10話 猛将 鬼の柴田ここにあり
織田信秀は熱田を制した後、隣国にもその名を轟かす鬼の異名を持つ、
家老の柴田勝家を先陣にし、
そして同じく家老の丹羽長秀は、直臣の溝口秀勝を伴って中軍を進めていた。
そして後陣には、織田信秀が多数の配下たちと共にゆっくりと進軍していた。
対して今川軍は平城を完成させ、その中に、軍は次々と集結していった。
今川家の平城は総大将の大原雪斎に任せ、岡部元信は平城の前に陣幕を張り、いつでも戦況次第では動けるようにした。
今川家の忍びが気配を一切感じさせず、
大原雪斎の元へ現れた。
側近たちは刀を抜こうとしたが、大原雪斎に焦る様子は全く無い事から、自軍の忍びだと、
配下たちは理解して刀を鞘に納めた。
「敵の先陣は何者じゃ?」と、大原雪斎が問うと、声を殺して、一般の兵士たちには聞こえないように答えた。
「先陣は柴田勝家三千、中軍は丹羽長秀三千、
後軍は織田信秀二千でございます」
「分かった。また何かあれば報せよ」
忍者は言葉も発さず、そのまま消えた。
「岡部正綱も誠に強き者じゃが、相手が勝家では
少々荷が重いのぅ」
「御舎弟の元信殿を合流させてはいかがでしょうか?
我らの先陣も三千で、中軍も三千で数では互角にございます」
菅沼定村がそう言うと、
大原雪斎は首を横に振り、ゆっくりと頭をもたげて信虎を見た。
「信虎殿。そのお力をお借りしたい。朝比奈信置と朝比奈泰朝。この両名と兵二千を付けますので、勝家を敗走させては頂けませぬか?」
客将であった武田信虎は、息子の信玄から追放され、無条件で今川家に面倒を見て貰っていた。
「このような巡り合わせたのは
久しく武からは離れておりましたが、
助力させて頂きます」
話していると、遠い場所から法螺貝の音が聞こえた。
前衛の大将であった岡部正綱は、着陣してすぐに攻めて来るとは
思ってもみなかった。その為、まだ陣営を整えていなかった。
「敵の大将は誰だ?!」
「旗印から柴田勝家だと思われます!」
正綱は後悔した。その声は辺りに響き渡り一気に士気が下がり、
配下たちは皆、逃げ腰になっていった。
騒めき立つ中、混乱も逃げ腰にもなっていない
一人の若武者がいた。
「我こそは河尻を討ち取りし、真田蒼紫なり!!
歩兵部隊は我に続け!!!」
男は黒毛の馬上の上から、天を突くほど槍を掲げて勇気を配下たちに示した。
真田は一人で、攻め寄せてきた織田軍を馬の力走を利用して、次々と頭を吹き飛ばしていった。
「大将は誰じゃ?! わしが鬼の柴田じゃ!
大将は逃げたのか!」
「我こそが先陣の大将、岡部正綱なり!
敵わぬまでもお相手致す!」
真田蒼紫はあれが噂に聞く鬼の柴田かと思いながら、戦っていた。
真に強き者は、真に強き者を見抜くように、
真田もまた柴田に対して畏怖さえも覚えるほどの
強さを感じた。
馬上から悠々と余裕を持って、正綱を相手にしながら、押し寄せてくる今川の兵士たちを、一振りで五人なぎ倒していた。
味方の兵士たちは怯え、逃げ腰になって近づかなくなっていた。
それに気づいた真田は、鬼の柴田に馬に蹴りを入れて、疾駆させて突っ込み、勝家の正綱への一撃を弾き返した。
「我こそが一番槍の真田蒼紫よ! 鬼の成敗と参りましょうか!!」
そう言葉を強めて言うと、真田は槍を勝家に、勇気を奮って叩き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます