第7話 決着
真田蒼紫と、槍と槍で攻防を繰り返していたが、
河尻は徐々に押し負け、防戦一方になりつつあった。
真田の槍は重く、足に力を入れないと
吹き飛ばされるほどの威力を体は感じていた。
過去の悲劇が熱き魂となって、彼に力を与えていた。
河尻は間合いを取ろうとして、真田の体を突くように力の限り押した。
その槍が届く寸前に、蒼紫は渾身の一撃で振り抜いて、その槍を
弾き返した。
その威力と槍の重さで、河尻は一瞬、体が浮いた。大将の危機を感じた
黒母衣衆は槍を幾重にも大将の体の上で交差させた。
真田は飛び上がり、背中まで振りかぶって雄叫びを上げて
漢の重槍をその上から叩き込んだ。
バキバキと槍の折れる音が聞こえ、河尻の体が地に着くと同時に、
黒母衣衆の全ての槍は折れて、真正面からその熱き一撃は、冷徹に体を割いた。
真田は槍を手放し、刀を抜いて素早く一回転した。黒母衣衆の喉は斬られて、血が噴き出すと共に倒れ込んだ。
その刀で河尻の首を切り取ると、穂先に首を刺して、高々と首を上げて叫んだ。
「河尻秀隆! 打ち取ったり!!」
これにより、織田軍は敗走し、逃げ遅れたものは全て殺された。
この報せを受けた織田信秀はすぐさま
河尻秀長を呼びつけた。
「大殿、何ごとですか?」
「今川勢に一ノ門を突破された」
「大殿、父は秀隆は無事でしょうか?」
「秀隆も黒母衣衆、
信秀のいた名古屋城までは、まだ二ノ門はあったが兵力は殆ど配置して
いなかった。その為、家老の林通勝と父親を討ち取られた息子の秀長を、二ノ門の守備大将として呼び出した。
織田信秀は勢いをつけた今川勢に対して、この二将では不安があった。
それ故、斎藤道三を抑える為に、道三も一目を置く平手正秀を古渡城に
入れて、牽制させた。
名古屋城を今川家から奪い取った織田信秀は、すでに柴田勝家を大将として、名古屋城よりも織田の居城近くの熱田に兵を向かわせていた。
熱田を取れば海路を制する事ができる為、名古屋城は何としても
死守する必要があった。
初戦で勝利し、気勢は上がっていたが、大原雪斎と岡部元信は
名古屋城を落とすのは厳しいと判断していた。
二ノ門を落とした場合、名古屋城とは臨戦態勢になる。
それならば、この一ノ門に改良を加えて平城にすれば、
西進への足掛かりとなると大原雪斎は考えた。
我らがここから動かなければ、北の斎藤道三に備えると考え、
その間に平城を作ると決めた。
岡部元信とその配下は敵軍が来た時の為に、前線の守りについた。
新兵には犠牲者も多かった為、退かせる事にした。その時、
「真田蒼紫。見事であったぞ」と岡部は声をかけた。
「御褒めの御言葉ありがとうございます!」
岡部元信は笑みを浮かべて前に出て行った。
真田蒼紫は嬉しさのあまり、あの少女を見かけて、
笑みを浮かべた。
少女も笑みを浮かべて手を振った。
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