第3話 試合開始!

これより試合を開始する。男は試合開始! と叫ぶと、

声と共に白い旗が振られて、それを合図とした。


真田蒼紫さなだそうしは武者震いを起こしていた。


一撃必殺の棍棒を持つ大山大吾は、真田が震えているのを見て、

鼻で笑った。「恐れるくらいなら、来なければよいものを」と

小刻みに震える真田に対して、悪態をついた。


そのあざ笑うような声で、真田の震えは止まった。

「おそれちゃいねぇ。これは武者震いだ!」


そう言うと、今まで大木や切株を相手にしてきた真田は、

風のように駆け寄り、木刀が軋みを上げるほどの力を込めて、

空を舞う鳥のように舞い上がった。


そして初めて人に対して、全身が興奮で震えるのを感じながら

その木刀に全てを込めて放った。


その力は身構えた棍棒の打ち砕き、大山の顔面に叩き入れた。

その凄まじい一撃は皆の動きを一瞬止めた。


試合とは言え、実戦で初めての戦いであった為、スッと地に足が

着くと、そのまま一回転して威力を高め、胴を薙ぎ払った。


既に意識を失い倒れる寸前に、そして判定役が勝者の名を上げる前に、

その胴への薙ぎ払いで、木刀はそのあまりの力によって砕けるように折れた。


岡部元信もその試合に目を奪われていた。

それに気づいた岡部の対戦相手の山下菊之助は、駆け寄りながら槍で岡部に

突きを入れた。


元信は菊之助に一瞥し、岡部の槍はその切っ先を、菊之助の槍の切っ先に合わせて

放った。真田はその凄さに驚いた。一点に一点で返して、山下はその威力で後退した。その1秒ほどの間に、岡部は槍を逆に持ち替えて、胴に突きを入れた。


その強き一撃で、菊之助は場外に吹き飛ばされた。


二人の強さに判定役の声は、歓声でかき消された。そして岡部は真田を暫く見つめて

場外に出ていき、今川義元の家臣の列席に座った。


「真田蒼紫。其方そなたも場外へ出よ。次の試合が待っておる」


一言も発せず、真田は場外に出て、勝者が行く足軽大将の場所に行き、名前と所属を

書かれていた。


大山大吾は気絶していた為、水を浴びせられてようやく立ち上がろうとしたが、

状況は全く理解していないようだった。負けた事を説明され、帰るよう敗者の出口

を指さして教えた。


大山は、勝者が書き連ねる場所にいる真田に目を向けて、そのまま出口から出て行った。




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