54:良かったです
「そ、村長おぉ~……、本当によがっだでずぅ~!」
ラァラの錬金術が成功したとルーゴから伝えられ、村長宅へと駆けつけたリリムを待っていたのは、変化の魔法から解放されたアーゼマ村の住民達。
もちろん、その中にはリリムの師でもある村長の姿もあった。
しかし、黄色い花が持つ『魔力超過』という性質を用いた錬金術によって、その身に掛けられた魔法を無理やり解いている形なので油断は出来ない。
なのでリリムは今、元に戻った村の住民達の身体検査の真っ最中である。
「村長も健康体ぞのものでずっ!」
「ワシの体よりも、まず自分の顔面を気にせぬか。ぐっちゃぐちゃじゃぞ」
村長に涙やら何やらに塗れた顔面を拭われながらもリリムは指を振るい続ける。
リリムが持つ加護によって呼び出した微精霊にお願いし、体に異常は無いかを調べて貰えば『異常なし』との返答が戻ってきた。
どうやらラァラの錬金術は完璧だったようで、村長含めた被害者達の体のどこにも異常や後遺症は見当たらなかった。
それを微精霊の加護で確認出来たので、リリムはようやく溜飲を下ろす事が出来た。安心したお陰でリリムの顔面はぐちゃぐちゃになってしまったが。
「ルーゴざん、ラァラざん! ありがどうございます! お二人のお陰で村長がようやく魔法から解放されまじだ~!」
大粒の涙をこれでもかと流しながら、リリムはルーゴとラァラに礼を言う。
ラァラの錬金術が無ければ、村長達は元に戻らなかっただろう。それ以前として、ルーゴが居なければロポスの襲撃を防げなかった。
二人が居たからアーゼマ村もその住民も皆無事だったのだ。
「まあまあ気にしないでおくれよ、俺は俺で対価は貰ってるしね。それに困ってる時はお互い様だって言うだろう?」
『ね?』とラァラが同意を求める様に振り向けば、薬品が入った籠を抱えたルーゴがそれに頷く。
「礼には及ばない。同じ村に住む仲間として当然の事をしたまでだ」
そう言ってルーゴが抱えた籠を台の上に降ろし、薬品を取り出し始める。
元に戻れた皆に異常は見当たらない。しかし魔力超過を錬金術によって無理やり付与しているので、その身体には僅かな発熱の兆候が見られる。
なのでリリムは急遽、解熱剤を調薬する事にしたのだ。
完成した薬をルーゴやラァラに配って貰っていたのだが、ルーゴがその手をとある人物の前で止めた。
「礼の言葉、それはお前が受け取るべきだろう……リズ」
ルーゴの視線の先、そこにはリズ・オルクという聖騎士の姿があった。彼女もまた、変化の魔法の被害者と言える人物。
リズがアーゼマ村に危険が迫っているという知らせを伝えにこなければ、変化の魔法の被害者はリズではなくリリムだった筈だ。
ロポスは診療所にあった魔術書に魔紋を仕掛け、それに気が付いたリズが魔法を受けてしまった。でなければ、リリムが先に魔紋に気付かず魔術書を手に取っていただろう。
「お前が村に来てくれた事で、リリムがいち早く危険を俺に知らせてくれたんだ。お陰で被害が広まる前にロポスを仕留める事が出来た、助かったよ」
ルーゴが礼の言葉をリズへと送ると、神妙な面持ちで彼女は首を振るった。
「いえ、私は何も出来なかった。聖騎士として恥ずべき失態です。そして、何も出来ずに魔法を受けてしまった私がこうして無事でいられたのは、ルーゴ様やラァラ様のお陰です」
そして、と続けてリズはリリムへと視線を向けた。
「リリム様の尽力のお陰でもありましょう。こちらこそ礼を言わせてください」
リリムは一度、聖女リーシャが率いたリズ達聖騎士に命を狙われている。
そういった過去があるので、リズは何か思う所があるのだろう。酷く申し訳なさそうにして、深々と頭を下げていた。
「いえいえ、リズさんも元に戻れて良かったです!」
リリム自身も少々思う所はあるが、ここはひとまず礼を受け取る事にした。リズがこちらの身を案じてくれていたのは確かなのだから。
彼女がリリムへ伝えてくれた二つのお告げ。
──アーゼマ村に住む知人、またその者が庇護する者に危険が迫っている。
──アーゼマ村にて死人が出る。
一つ目のお告げに関して、これをリズは『ルーゴとリリム』に危険が迫っていると解釈した様だったが、問題は二つ目のお告げだ。
死人が出る。
不穏な響きを感じさせるお告げであったが、こちらの方は何かの間違いだったと今のリリムならそう思える。
アーゼマ村で死人など出ていない。
ルーゴと一緒に戦ってくれた冒険者達も全員無事。
もしかすれば死人とは襲撃者であるロポスだったのかも知れない。彼はルーゴによって倒されたとリリムは聞いていた。ただ、事の顛末――生死の行方は知らされていないのだが。
何はともあれ、
「全員、無事でなによりですよ!」
リリムが表情に満面の笑みを浮かべると、リズも表情を緩めてそれに頷いた。村長を含め、元に戻れた他の者達も同様に。
全員、無事。
その言葉で僅かにでも表情を歪めたのはルーゴ一人だけ。彼の表情は兜に隠されていたが、隣に居たラァラだけはそれに気付いていた。
確かにリリムの言う通り、アーゼマ村の住民と、そこに居合わせた冒険者達は全員無事だ。だが、その中に襲撃者の一人であるエル・クレアは含まれていない。
ラァラは小声でルーゴに言う。
「エル君の事が気になるかい」
ルーゴはそれに応えなかった。
だが、気に掛けているのは事実だろう。でなければ『何かあった時の為』という名目で、エルただ一人に分身魔法を使って見守るなんて事はしない。
その場に居た訳ではないのでラァラも詳しい事はまだ分からないが、エルはルーゴとの戦闘の末に敗北、そして昏睡状態に陥ったとラァラは聞いている。
昏睡。
この状態については心当たりがある。
ルーゴが持っている力の一つである『再生の儀』だ。
恐らくエルは一度死に、そこから蘇りを果たしている。
あれはエルだけでなく、ルーゴにもリスクが及ぶ程の力だとラァラは知っている。
しかし逆を言えば、そうまでしてルーゴはエルの命を守りたかったという事だ。裏切り、命を狙った非道な元仲間だと言うのにも関わらず。
錬成中は慌ただしくてとても腰を据えて話なんて出来なかったが、村の住民が元に戻った今なら、少しは落ち着ける事だろう。
「エル君の事も含めて、後で話をしようか」
「……ああ、そうだな」
ルーゴは重々しく相槌を返した。
短いですが一旦区切ります。
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