第3話 厄介な日の始まり3

 茶髪で緩やかに波打つパーマを当てられた、セミロングのフワッとした髪の毛。 健康そうな桃色の肌をし、空色のワンピースに身を包んだ、悠子を迎えに来た女子は、高見沢京子たかみざわきょうこという。

 彼女は、物流から建築までとにかく幅広い業種を運営する高見沢グループ、日本国内では指折りの実業家である高見沢圭吾の一人娘。

 有名なお嬢様学校である私立聖ラグナー高校の一年生で、その恵まれた容姿と気品、頭脳明晰さから、お嬢様の鏡と言われるほど。

 街を歩けば誰もが振り返るほどであり、異性などはあっという間に虜にされてしまう。

 だが、その嫋やかな微笑みはあくまで素を隠すための道具に過ぎず、皆が言う「美しさと賢さを備える評判の令嬢」は、とても大きな大きな猫をかぶっていた。

 この令嬢の、その本質は面白いことがこの上なく大好きであり、粗暴にしておおざっぱ。

 才色兼備、良妻賢母なんて言われているが、実際のところ口から出てくるのは「面倒くさい」であり、勉強にしたって要領よくやっているだけで別に好きでやっているわけではなく、日頃の日常生活においてはメイドや執事という側仕えがいなければ何も出来ないのが実情である。

 そんな京子に無理やりつきあわされている、腰まである長い黒髪をひっつめて朱色の組みひもで結び、どこの古着屋に売りに行っても買い取ってもくれないだろうボロボロの衣服を好んで着こなす、ひょろりと細く白い肌の不健康そうな少女は、日下部悠子くさかべゆうこという。

 ヒノワが倒れれば世界が倒れると言われるほど、ヒノワグループは世界的な影響力を持つ企業なのだが、悠子はそのヒノワグループの長女。

 大きな企業の子女でありながら、見た目は非常に貧相で貧乏そのもの。

 別に家族に冷遇されているわけでもなく、どちらかと言えば溺愛されているのだが、悠子はそれが鬱陶しく、現在のような生活を好んでやっているのだ。

 日下部家一の変わり者であり、一族らしくない悠子。

 日下部の一族はそれぞれが独立した組織を持っているのだが、その中でも悠子が持つ組織は巨大であり、それを運営しているのが悠子であることは知られていない。

 そう、悠子は非常に頭がよく、それこそ頭脳明晰と言われてもいいほどなのだが、学園での成績は中の下辺りをうろついており、見た目も相まって、影では変人または日下部の出来損ないと揶揄されている。

 ただ、変人という言葉も日下部の出来損ないと言われることも、悠子はいたく気に入っており、それは自らを表すのに適切であり適当だと思っていた。

 高見沢京子が猫をかぶった令嬢で、猫を外せば正体が現れるのに対して、日下部悠子はたぬきをかぶった狐という感じだろう。

 被ったものを外してみても結局本体も何かを被っていてその正体はつかめないのだ。

 そんな2人はクラスメイトであり、はたから見ても親友だと思うほどに仲がいい。

 クラスでは全く正反対の場所に居る2人なのに、なぜそこまで仲が良いのかと、皆が首をかしげてしまう七不思議となっていた。

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