第2話 厄介な日の始まり2

「よく言うよ。自分1人で行くのが嫌だからって、オレを道ずれにしようって魂胆のくせに。しかも、キチンと嫌だとお断りしたにもかかわらず連れて行くんだろ? 立派な拉致だ」

 後部座席の背もたれにどっしり体重を預けて悠子が言えば、口をすぼませて眉尻を下げた情けない顔で女子は反論する。

「だって、だって! 私の知り合いの中で、あの曲者揃いのパーティに出席して、それを普通に楽しみながら存在できて、さらに連中に太刀打ちできる人って悠子しか考えられないんだもの。それに、今回はパーティに出ればいいだけじゃなくって、お泊まりするのよ? ずっと一緒にいる状態で私が猫かぶらなくて良いのって悠子だけじゃない」

「あぁ、そうだな。貴様はでっかい猫を背負うぐらいで飼ってるからな。学園の中で貴様がそんなに傍若無人で、わがまま野郎だと知っているのはオレくらいだろう」

 じっとりと視線を送りながら言う悠子だったが、すっかりしょげてしまって居る女子の姿に大きな息を1回吐いて、観念したように女子の頭を軽く叩いた。

「やれやれ、仕方がない。一緒に行ってやるから顔を上げろ。それと、とりあえず、家に帰るぞ。1泊であろうと着替えもなしで旅行というわけにはいかないだろう。荷物をまとめないと」

 悠子が言えば、女子は輝く瞳を向けて顔を上げ、悠子の手を取り微笑んだ。

「あら、それは大丈夫よ。ちゃんと貴女の分も用意してきたもの。貴女のことなら頭の先から足の先まですべて知ってる私が用意したのよ、サイズもぴったり、着の身着のままでも大丈夫よ」

「……あぁ、なるほど。ここまでが計画的犯行というやつか。それでも一旦帰るぞ、自分のものが何もないのは落ち着かん。外出するとなればそれなりに必要なものがあるからな」

「もう、大丈夫なのに」

「着替えとかの心配じゃないんだよ。これでもオレは日下部だからな」

 鋭い眼光をバックミラーに向け、顎をくいっと持ち上げる。

 その仕草に答えるように、運転席の男が頷きハンドルを切った。

「うちの運転手なんだけど」

「なんだ、ついていってもらうのに文句が多いな。嫌ならいいんだぞ、オレは今から日下部に帰る」

「なっ! 駄目よ! そんな事したら私じゃ手が出せなくなるじゃない。わかったわよ、寄ればいいんでしょ寄れば。っていうかそんなこと言ってまた逃げたりしないでよ」

「こんなに観念してやってるのに逃げるわけがないだろ。全く」

 はぁと少々長めの溜息をつきながら悠子は到着したあび荘に入り、自分の荷物をまとめ、背中が少し隠れる程度に小さめの真四角のリュックを背負って、再び車に乗り込んだ。

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