第10話 西条太一郎1
しばらく行けば、非常に落ち着いた趣のある苔むした古城が現れたが、その入り口部分には近代的な車寄せが建設されており、せっかくの雰囲気をぶち壊している。
「城に合わせて前庭を造るのならともかく、何だこれは。本当に、趣味の悪いやつだ」
「そうね、最低ね」
「いくら客の要望でもやりたくない仕事だな、これは」
悠子のつぶやきに思わず京子も頷き、鷲征も呆れたような瞳を向けた。
古城の前に着くと、吉川が回りこんで扉を開ける。
ドア近くの鷲征から降り、悠子、京子の順で降りてきて、目の前にある古城を眺めた。
苔むしてはいるが、建材一つにも当時の職人、そして移築した職人の気合が見えるようで、作りのしっかりした大き目の屋敷というのがぴったりな小さな城だ。
「車寄せはともかく、中々の古城だな」
「本当にすごいね。これを移築したのか。どこが請け負ったのかは知らないけど土台もしっかりちゃんとしているし、いい仕事するなぁ」
「お? 流石は佐藤建設の息子様ってところか?」
「一応跡取りだからね。そういう悠子ちゃんもだろ?」
「……さぁな」
鷲征の言葉に悠子は答えず、古城を見上げる。
まるで元からここに在ったかのように存在感を主張する古城を眺めていれば、京子は腕を空に突き上げるように伸びをしながら呟いた。
「主催者は最低だけど、この島とこのお城は最高じゃない?」
京子のつぶやきに悠子は、古城から視線を京子にじっとりと向ける。
「おい、そこの馬鹿。人に注意しといて、お前の方が聞こえるぞ」
「あら、吉川さんはそんな人じゃないんでしょ?」
「お前な、もう入り口に来ているんだ。ほかの使用人が聞いていたらどうする」
「その時はその時。帰っちゃえばいいんじゃない?」
「はぁ。一応『高見沢のお嬢様』だろう。使用人っていうのはな、たいていが噂好き。さらに雇い主に比例する。ここの雇い主がどんなかはわかっているだろう? 今まで築き上げた『高見沢のお嬢様』という地位を噂で落とされたくなかったら、ちゃんと猫を総動員させていろ」
「……そうね、さすがにそれは困るわね」
少し息を吐きながら観念したように言う京子の横に荷物が置かれ、笑顔で吉川に挨拶していると、古城の扉が開き、下品な笑いが聞こえてきた。
「これはこれは! お待ちしておりましたよ。高見沢の」
両手を広げて扉から階段を下りて車に近寄ってくる男の声を背中に、京子は嫌そうに「うげっ」と小声でもらす。
その京子の様子に「猫を」と言いかけて、近寄ってくる男を見た悠子は言葉を飲み込み目を丸くした。
「おぃ、いつの間に異世界転移したんだ。なんだ、あのオークは?」
「オークって……。あれが
悠子の発言に思わず吹き出しそうになるのを堪えて鷲征が答えれば、悠子はもう一度じっくりと太一郎を見る。
「……あれがか。実物は初めて見るが非常に酷いな。もしかしたらオークのほうが男前かもしれん」
「なかなかに酷いね」
「いや、しかしな、西条の爺さんはあんなではなかったんだぞ。確かに禿げてはいたが、アジア人にしては珍しいほどに目鼻立ちがしっかりした男前寄りだったんだ。あれでは面影の一つもないじゃないか。どうやったらあの爺さんからあんなのが出来上がるんだ」
理解が出来ず、納得がいかないという風に首を捻りながら、京子と鷲征の後ろの方から主催者である太一郎の動向を見守った。
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