第6話 実験と検証と現実1
「言っておくが、今まで西条に泣きつかれて高見沢が出した金は、西条の金だぞ」
「は?!」
「西条の金というとあれか、正しくは爺さんの金だ」
「先代のお金ってどういう事? だって全部あのバカに相続しちゃってたんでしょ」
「そう、爺さんの全財産だと思っている馬鹿が、その全財産を引き継いだんだよ」
ニヤつく悠子の言葉に、京子ははっとして悠子を見る。
「もしかして、全部じゃなかったってこと!?」
京子の言葉に、口から小刻みな息を吐き出すようにいかにも楽しくて仕方ないというふうに笑う悠子。
だらりとした体はそのままに、京子を指差した。
「あの爺さんは相当な変わり者だったんだよ」
「……悠子に変わり者って言われるって、たしかに相当なのね」
「そう、相当なんだよ。あの爺さん、昔、金持ちと貧乏人、環境がすり替われば人はどう変わるのか? っていう映画を見てな、自分もそれをやりたくなったとかぬかしやがった。で、実践することにしたんだ。ただ、映画では最後、身勝手にそんな実験をした年寄り二人組は実験された二人組にしてやられる。爺さんは自分はそんな失敗はしないと意気込んで実験をはじめた」
「実験って。そんな人に見えなかったけど。確か施設から身寄りのない子を何人もあずかって立派に育てたり、不良を更生させたりってので、テレビで取り上げられるくらいだったじゃない」
「それこそ表向き、だな。慈善事業なんてものは裏で何かしらうごめいているものだが、爺さんは裕福でない子供、バカな子を集めて、教育という環境を与えることでそれらがどう成長するか実験していたにすぎん。映画では入れ替えて実験したことが間違いの素だったんだと鼻息荒かったぞ。爺さんが考える正しい方法ってのは、3種類の人間を3種類の環境によって育てればどうなるか、だった」
「3種類って?」
「裕福でない子には、努力をすることで金という対価を得られる環境を与え。バカにはそれ相応の教育を与え。最後に、金は与えるが教育を与えない。という3種類だ」
「あれ? 裕福を貧乏には無いんだ」
「爺さんいわく、裕福を貧乏にすればどうなるかなど想像せんでもわかること、実験の必要はない、だそうだ。だから爺さんは、施設や繁華街を巡り、自分の実験に見合った個体を連れてきては教育と対価を与えていた。そして、自分の血族には金は与えるが教育は施さなかった。与えられた環境で人間はどうなるのか、そういう実験だったんだよ」
「で、出来上がったのがあのバカってこと?」
「金は与えてもらってたんだ。向上心なり何なりがあれば、自分で学習しようとするだろう? 本来持っている気質っていうものも有るだろうがな」
「金持ちの道楽ってこと? 呆れた。色んな意味で大層な人物ってことなのね」
「そういうことだ。で、実験の過程で爺さんは西条の事業とは別で資産を持つことにした。まぁ、あの馬鹿を見てたら賢い経営者ならそうするだろうがな。最終的に爺さんは、己の血族には何も残してやることはしないと決め、さらに手ずから育て上げた優秀な人材を、バカ丸出しの血族に使われることを嫌がった」
悠子は本当に面白いというふうに、小さく小刻みに息を口の端からもれさせる。
西条が自分の実験がうまく行ったことを自慢し、血族の馬鹿さ加減を楽しんでいたが、それと同時に汚いものでも扱うかのような態度を取る、そんな先代の西条の様子を思い出していた。
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