第5話 招待状3

 半分閉じているような瞳を京子に向けて、悠子は京子に聞く。

「で、そのアホな成金パーティに高見沢が呼ばれたと?」

「毎年なのよ。やれホテルの貸し切りだの、船の貸し切りだのと、1晩まるごとパーティで」

「なんとまぁ、そんな経営状況じゃないだろうに。社員も大変だな」

「何より腹が立つのは、そのパーティに高見沢も幾らか出してるってこと」

「……なるほど」

「泣きつかれて出してんのよ、うちの親。ほんと、いい加減切ってしまえばいいのにさ、ほら、うちの両親って甘いじゃない? 先代に頼まれただの何だのいってずるずるとね。最近じゃせびりに磨きがかかってあり得ない金額要求してくるのよ。流石にそれに応えるほどうちのも甘くないけどさ」

「ふむ、高見沢は確かにお人よしではあるが、ただのお人好しではないぞ。それに甘いというわけでもない。毎年出席していたパーティに京子を送り込んだということは、いろいろな算段がついて、そろそろ西条を切るころなのだろうさ」

「そうなの? 都合がつかないって言ってたけど?」

「西条の思惑に都合がつかないってところだろうな。急に参加しなくなればあの西条のことだ、高見沢の無い事無い事言いまわって評判を落としにかかるだろうが、娘であろうと『高見沢』は出席しているわけだから文句は言えまい? それに、西条はおそらくわがまま要求しようと思っているはずだ、しかし事業に一切立ち入っていないお前が来たところで要求のしようがない」

「え、ちょっ、娘を利用したってこと」

「何を今更。お前の猫は大概に高見沢の役に立っているぞ」

「し、知らなかった」

「お前は猫を操るのは超一流だが、駆け引きとなると途端に糞がつくほど下手だからな。内容を教えて立ち回らせれば、それはもうバレバレで大変なことになるだろうさ。まぁ、いいじゃないか。親のスネをかじってるんだ、少しぐらい恩返ししてやれば」

「他のことはいざしらず、西条に送り込まなくってもいいじゃない」

「だから言っただろ、お前でなければ駄目なんだ。交渉の余地が少しでもある人物じゃ駄目だし、高見沢が参加したという名目も必要。となればお前しか居ないだろ? お前の兄貴や従兄弟では交渉の余地がありすぎるからな」

「交渉っていってもどうせお金をせびるだけでしょ」

「ふぅ、ホント、お前はこういう事に興味がないのな。金であれ何であれ、今交渉の余地を与えるのは得策じゃないんだよ。あのなぁ、西条がどうして今まで低空飛行では有るがもったと思う? あれは社員が優秀で頑張っていたからだ。残されてしまったブレーンは爺さんが手ずから育て上げた存在だったし、社員も爺さんが面倒を見てきたようなものだ。だから、意識の戻った爺さんは社員を高見沢に託したんだよ。だがな、あの西条だ、下手に動くと余計な労力や資金が動く可能性があるだろ? だからジワジワやることになったんだ」

「……。悠子、まるで見てきたみたいに言ってるってことはアンタ……」

「爺さんが提案してきたのはオレにだ。だが、少しでも西条との関わりをヒノワに入れたくなかったからな。ちょうどいいところに放り込むことにした」

「アンタが最低だってのは知ってたけど、知ってたけど! はぁ、そのせいで高見沢のお金があんな西条に渡ったなんて」

 がっくりと肩を落としてなんて勿体ないとつぶやく京子に、左の口角を引き上げにやりと笑う悠子が言った。

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