第5話カラオケ2

 上の階のドリンクバーには誰もいなかった。


 

「下衆が!」

 俺は、怒りをぶちまける。


 俺のことは、なんと言おうがどう見ようが別にいい。だが…俺の妹を汚らわしい目で見るんじゃない!


「お説教ついでに忠告しようと考えていましたが…この学校の闇を説明する手間が省けて良かったです。要注意人物も炙り出せましたしね」


 この学校の闇か。桜花はやはり、その辺の事情を知っていた。


「あの3人には、桜花を近づけさせないようにしないと!しかし…小学校からこの学校に入学できたら、そんなに偉いのか?」


「そう考えている人はごく一部でしょうけどね。まぁ学年主席をとったのは、そういう人達に初手からぶちかましてやる!という意味もありまして…お兄様に見せつけてやる意味もありますけど」


「俺にまで先制攻撃をしかけるなよ!まぁ、そっちは気づいていたけどね」



「さすがは、お兄様です」



「〝さすおに〟はやめろー!」


「くすくす」

 妹は、玉を転がすように笑う。



「で、どうするんだ?虫酸が走ってるんだろ?ああいう連中に」



「汚らわしい目で見られるのはどこに行っても同じなのですが…お兄様には、わたくしを守っていただかないと。もう手を離しても大丈夫だろ?とか考えて、遠くに行かれては困ります。これからです。お兄様が必要なのは」

 そう言いながら桜花は、甘えるようにぴったりとくっついて俺の肩に頭をコトンと乗せた。


 俺以外の男と接するのは、本当は不安なんだろうな。


「俺に変な男からお前を守る盾となり、剣となれってか?」


 つまりは、姫君プリンセスを守る騎士ナイトだ。こいつ、姫君の水準だけでなく騎士に求める水準もめちゃくちゃ高そうなんだけど…



「そのためには、軟弱であってはなりません!猛特訓します。ついてこれますか?返事は〝はい〟か〝YES〟しか受け付けませんけど」



「拒否権はどこへ?」



「下衆どもに妹を軽んじられて怒り狂っている兄に、そのようなものは必要ございません!」



「猛特訓の内容を聞いておこうか?」



「そうですねぇ…とりあえず体を鍛えましょうか…ランニング10km・腕たてふせ100回・上体起こし100回・スクワット100回。これを毎日やるのはどうです?」


 …。


〝ワ◯パンマンチャレンジ〟じゃねーか!


「ハゲないやつで頼む」


「善処いたしますわ!」


 桜花は、俺の肩にずっと乗せていた頭を上げて俺から離れた。


(会話は終わりか)


 それから、頼まれていた飲み物を注いでいき、俺たちは部屋にもどるのだった。

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