第4話カラオケ
平日の16時ごろ。カラオケボックスはまだ空いている。
俺たちは、三部屋に分かれた。
俺と桜花は、なんとなく2個1で扱われてい
る。
「音程超正しい!」
「2人とも、ボーカロイドみたい!」
これらは、褒め言葉だろうか?
うーん…、音程は正しいけど抑揚に乏しい。
感情がこもってない!というマイナスのイメージも多分に含まれているのでは?
すまんな。俺たちは五感が過敏で、音程を外すと自分もダメージを食らうんだ。
腰をやった高齢者が腰に衝撃が響かないようにゆっくり慎重に動くように、慎重に歌わないと…
楽しそうに歌えなくて、心から申し訳ないと思っている。
せめて、他の人が歌っている時は、努めて楽しそうに振る舞おうと努力している…つもりだ。
みんなの飲み物をとってくるなど、積極的に働きもしようか。
「飲み物をとってくるけど、なにかいる?」
「烏龍茶」
「ジンジャーエール」
「コーラ」
「カルピスソーダ」
メモをとっていく。
「じゃあ、わたくしも行きます」
桜花が手伝ってくれる。
「ありがと、助かる」
ドリンクバーは、廊下を右折して一番奥あたりにあったな。
桜花も、少しだけここから避難したい頃合いだと思った。
♠️
部屋から出て、2人で廊下を歩く。
曲がりかどに差しかかった時…
ドリンクバーの前あたりで3人くらいの男子が会話しているのが聞こえてきた。
「一色兄妹はどうよ?」
「なんか、こういう場所に慣れてないみたいな感じ? 音程は、超正しいけど」
「良家のお坊ちゃん、お嬢ちゃんって感じだもんな」
「うちの学生は大抵そうじゃね?」
「俺たち幼稚舎組はその中でも特別だってことは、いつ教えてやるんだ?」
「さあ…兄貴の方は、どうでもいいが…妹の方は、美人でスタイルもすげえからなぁ。いろいろと手取り足取り教えこんでやりたいよな!そのためには、兄貴の方とも仲良くしとくか。最初のうちだけだけど」
「そなたも
「お代官様ほどでは」
「「「あっはっはっ」」」
♠️
(桜花に悪い虫でもついたら嫌だな)と思ってカラオケについてきたが…悪い虫どころか…
越後屋と悪代官様がいた!
いや、幼稚舎組と言ったか?小学校(?)からエスカレーターで高校まで上がってきた連中ってこと?
今日この辺を案内してくれた奴らは、基本気のいい奴らばかりだと思う。
俺の嗅覚はちゃんと働いている筈だ。嫌な感じはあの3人からしか受けない。
でも、その3人が問題なんだ。
思えば…大学でヤリサーとか作って、女の子に酒や薬を飲まして集団で凄惨に暴行した事件をニュースで何度か見聞きした覚えがある。そういうことを平気で出来るのは、ああいう輩なんじゃないか?
幼稚園受験を勝ち抜いた自分達は特別で、何をしても許されるみたいな肥大した自我を持った奴ら。
良家の子女が集まるこの学校で、そんな連中がいるなんて微塵も考えなかった。幼少時に難関を突破したことで周りから「偉いでちゅねー」と、もてはやされつづけると…クズに育つわけか。
(俺はいいけど、妹までこんな高校についてきてしまった)
嫌な現実をまのあたりにした今、妹はどんな顔をしているだろう?そう思って妹の方を見たのだが…
「上の階に行きましょうか?」
そう囁いた妹の顔に、怯えや動揺の色は見られない。
(桜花はこういうことを知っていた。というより…予想していたのか?)
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