バグ処理委員会

 俺、五十嵐翔太は異世界に転生した。

 運悪く交通事故に巻き込まれ、死んだはずだが……。

 なんと!俺がはまっていたゲームの世界に転生したのだ!

 最初からなぜかレベルマックスでチート能力も持っていた。


 それから俺は冒険者となって活躍し、今は街を歩けば「勇者様!」と言われるほどになった。

 食べ物はうまいし、美人なお姉さんたちがたくさんいるし、どこにでもいるような平凡な男だった俺にとっては夢のような世界だ。


「ショウタ様!変わった格好の黒い男がショウタ様と話したいと言っております。追い返そうと思ったのですが、なかなかの強者で……、申し訳ありません」

 ある日、ボロボロになった俺の部下が慌てた様子で言ってきた。

 俺に次ぐ実力者であるこいつがやられたということは強者で間違いない。

「よし!会おうじゃないか」





「イガラシショウタ、さんですね。私はバグ処理委員会のゴドウというものです」

 変わった格好の黒い男とは、黒スーツを身に着けているゴドウという男のことか。

 ご丁寧に名刺まで渡してきた。


「で、何の用ですか?」

「では、単刀直入に言いますね。イガラシショウタさん、あなたには消えてもらいます」

「は?え、なんで?」

 怒った俺の後ろに控えてた部下がゴドウに斬りかかったが、軽くあしらわれた。

 正直意味が分からない。

 俺はこの男に会った覚えがないし、恨みを買った覚えもない。


「混乱されているようですね。簡単に説明しますとあなたはこのゲームシステムにとってバグのような存在なのです。バグ処理委員会はそういったバグの排除を行う機関です」

「はぁ、つまり俺は……、」

「ご理解いただけましたか。最近はどこの世界でもあなたのような存在が次々と湧き出てきまして私どもは非常に忙しいのですよ。寝ることも許されずに働いているのに給料ゼロとはこれこそブラックき、と私の愚痴は置いといて。さぁ、ショウタさん準備はいいですか?」

「え、ちょっと待って!」

 直後、世界が反転した。
















「あ、れ?」

 朦朧とした意識の中、先ほどの出来事について考えた。

 手にしていた名刺はいつの間にか消えている。


 夢だったのか、そうか夢だったんだなきっと。


 もう一度夢が見れるようにゆっくり瞼を閉じた。


 しかし、夢を見ることも、その瞼が再び開くこともなかった。

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ちょっとおかしいかもしれないショートショート 月居千那 @swepota

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