ロボット姉妹

「だから!私はママのロボットじゃないの!」

 梓は目の前にあったクッションを母に投げつけ、自分の部屋へと駆け込んだ。

 はぁ、と深いため息をつき座り込む。


 梓は、今まで母の言うとおりに生きてきた。


 勉強を頑張るのも梓をいい大学に入らせたい母のため。

 みんなに愛想よくするのも恥をかきたくない母のため。

 誰よりも完璧を求めるのも完璧な娘が欲しい母のため。


 自分のことを自慢する母の顔が一番生き生きしていて、嬉しそうに見える。

 単純だったころの梓はそんな母を見て、頑張ろうと思えた。


 自分が失敗した時の母の落胆の表情、自分への関心がなくなる瞬間。

 純粋だったころの梓はそんな母を見て、失敗は許されないと思えた。


 ある日、将来の夢について友達が話しているのを聞いて梓は思った。

 友達には明確な自分の意思がある。

 今までの自分にはそれがあっただろうか。


 何をするにも母の表情をうかがった。

 梓の好きな色は、母の好きな色。

 梓のやりたいことは、母のやりたいこと。

 梓の夢は、母の夢。


 いつの間にか母の敷いたレールの上を走っていて、母の色に染まっていた自分。

 そんな自分は嫌だと梓は思った。

 それからの梓は母に反抗するばかりだった。





 顔を上げると一生懸命に勉強する妹の姿があった。

「ねぇ、日葵はずっとママの言うとおりに生きていくの?」

「私はママの言うとおりにするよ」

「まるでロボットだね」


 梓は妹の日葵を嘲笑う。

 可愛そうだな、というより可笑しくて仕方がなかった。












「日葵、今日からお姉ちゃんはこのリモコンを操作しないと動かないからね」

「うん。分かったよ、ママ」


 馬鹿だな、お姉ちゃんは。


 これからも日葵は母のロボットのように生きる。

 お姉ちゃんのようにならないように。

 本当のロボットにされないように。

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