第18話

ぼうっとする頭と火照った体。


余韻に浸り寝そべっているモチオの乱れた髪の後れ毛を、リルはクルクルと人差し指に巻き付けて遊びながら、

「やっぱりモッチーの肌は、つやつやだね」

満足げに笑った。


喜ぶべきことなのに、モチオはどこか浮かない表情だった。


「女性は皆つやつやじゃないか」

「モッチーは格別なんだよ。ずっと触っていられる」


自分の肌質のことは自分ではよくわからなかったが、お世辞を言わない彼の言葉なら違いないのだろうと思った。


「いっそのこと、食べちゃおうかな……」


耳たぶを甘噛みされたモチオは、

「えっ…………?」

と目を丸くした。


「うそうそ。冗談だよ」


そしてそっと口づけし舌を這わせると、モチオはぞくりと体を震わせた。


「あっ…………まだやるの…………?」


「全てが愛おしくて仕方ないんだよ。こんなに安らぐことってないから……う~ん、もしかしたら、こっそり狙ってるヤツがいるかもしれない」


リルに頬ずりをされながらモチオは「ううん」と首を振ろうとした。


「ないない。リル以外にわたしを好きになってくれる人なんていないよ。

友達だってできないのに」

「僕も同じだよ」


「リルはいつも周りにいっぱい人が集まってくるだろ」

「いっぱい来るからって皆親しくなれるわけじゃないよ。長続きしない人も多いし……」


「その感覚すら、わたしにはわからないな」


「僕は1人でも自分を信じてくれる人がいたらそれでいい……

っていってもこんな体たらくだから信用されてないだろうけど」


「………そんなことない。わたしはリルを信頼してる。

じゃなかったら付き合ってないもん……」


「ありがとう。やっぱりモッチーは優しいな……」

「優しくなんかないよ。自分がそうしたいからしてるだけ」


「そういう真っすぐなところを理解してくれる人が現れるよ、きっと」


「何年、何十年かかるかな……」

「ゆっくりでいいんだよ。周りに合わせる必要ない」


「だといいけど……って、リルがいるじゃないか。もしかして突き放そうとしてるの?」


「いつかは離れる日が来るかもしれないでしょ」


と言うとリルは視線を遠くへやった。


(他の人達がそうだったから……?)


尋ねようとしたが、寂しげな顔を見ると憚られた。


(そりゃ、他の恋人と自分は違うなんて言えない……けど……)


モチオはリルの手を握りしめた。


「わたしがリルを好きって気持ちは本当なんだから、今は悲しくなるようなこと考えないで」

「モッチー…………」


彼は驚いた様子だったが、

「うん、そうだね……ごめんね、弱気なこと言って」


いつものように涼やかに笑むと、モチオは安心してそのままぴたりと体を寄せた。


「ありがと……」

「お礼を言うのは僕のほうだよ」


リルはモチオを強く抱きしめ、首元に顔をうずめた。


しなやかな指で髪を梳かれながら、熱い吐息が耳の後ろにかかるとモチオは全身がきゅんとなって、

「……好きなようにしていいよ」

思わず口に出してしまった。


「そんなこと言ったら、どうなるかわかってる……?」


「え……あ……」


声を出す間もなく唇を塞がれた。


ねっとりと舌が絡み合う度、体も熱くなってますます燃え上がる――

はずが、モチオは次第に眠気に襲われ、うつらうつらしてきた。


「ゆっくりおやすみ……」


背中をさすられながら、ゆったりとした声が心地良く響く。

甘くやさしい香りに包まれ、ふわふわした心地になりモチオは眠りについた。


2時間ほどしてモチオは目が覚めた。

隣ではリルがすやすやと眠っている。


モチオは彼を起こさぬように静かにベッドから下り、服を持って姿見の前に立つと、鏡に映った自分を見て気恥ずかしくなった。


一糸纏わぬ姿には首や胸にかけて薄赤い跡がうっすら残っていた。


(結局こうなってしまうんだよな…………

服着てたら見えない部分だし、まあ、見えても誰も気にしないからいいけど……

それにしても、わたしが眠った後も食んでたなんて……愛情の証みたいなものかな)


どんな形であれ、必要とされていることは嬉しい――

と、男女のように体で繋がれなくても、モチオは幸福感でみたされていた。


(もう3時か。そろそろ帰らないとな……)


壁掛け時計で時間を確認したモチオが服を着て帰る支度をしていると、


「ふぁぁ……あれ……?どうしたの……?」


リルが目を覚まし布団を捲った。


「これから仕事だろ?」

「仕事はもう終わったよ……今日は夕方までは空いてるんだけど……」


「えっ!?……あ、そうだったっけ……勘違いしてた。ごめん……」

「いいよ、気にしないで。どこか行きたい所はある?」


「行きたい所?遠出する時間はないし……う~ん、う~ん…………」


リルがベッドから下りて着替えている間、モチオは考え込んでいた。


この頃、まとまった時間が取れなかったので“いざ、デート!!”となると、どこで何をすればいいかすぐに思い浮かばなかった。


「あ、オハナナノ公園とか?……あんまり楽しくないかな」

「ううん、じゃあ行こうか」


2人は手を繋いで公園へ向かった。

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