第19話

オハナナノ公園は、リルの職場のオハナナノ庭園から西へ15分程歩いた所にある小さな公園で、モチオが子供の頃はよく連れて来てもらっていた。


園出入り口の花のアーチには、色とりどりの花の香りに誘われ、白やクリーム色の蝶々が飛び回っていた。


園の中心まで行くと課外授業でやって来たのか、7歳から10歳くらいまでの子供達が15人程、滑り台や綱渡りなどが一体化した大きな遊具で楽しそうに声を上げて遊び、その傍では先生と思しき若い女性が見守っていた。


「ブランコ、よく乗ったなあ……」


2人は花壇に囲まれた噴水の傍のベンチに座ると、懐かしみながら子供達を眺めていた。


その視線に気付いた彼らは手を振り、先生の女性もにこやかに会釈してくれた。


「子供はあっという間に大きくなっちゃうね」

「うん……リルは当時つまらなかったんじゃないか?大切な時間割いてまで、わたしの面倒見てくれてたし……」


「つまらないと感じたことはないな。童心に帰ったような、何だか優しい気持ちになれたよ」


「そっか……それならよかった」


「このくらいの歳までだったなあ、無邪気に遊べてたの。

大人がついてた頃は、変な虫が寄り付かないように守ってもらってたけど、独り立ちしてからは全然ダメだったから。

駆け引きとか苦手で……お人好しなんだろうね……」


「人を引き寄せるのはしょうがないことだよ。誰も傷つけたりしてないんだから」


「だといいけど……モッチーといるとありのままになれるから。

他の人の前だと完璧でいなくちゃって、気を張ってしまう……」


「わたしにはいつも変わらないように見えるけどな。

リルはかしこくて何でもできるし、皆に優しい」


「それは褒めすぎだよ」


くすくすと笑った。


「本当なのになあ~」


立ち上がったリルは花壇の前にしゃがみこみ、可憐な紫色の花を人差し指で撫でて、顔を近付け匂いを嗅いだ。


花の香と彼の香が合わさり、モチオの周りにもふんわりとやさしい香りが漂ってきた。


愁いを帯びた瞳にモチオはすっかり見惚れていたが、リルは気に留めず、花の周りの土を少し手に取って指で擦り合わせながらパラパラと落とし、上から軽く押さえると「うん」と頷き微笑を浮かべた。


花の状態が良好だったので満足していたのだろうとモチオは思った。

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