第34話
ふわふわと浮いた体は、まるで何層にも重なったゼリーの中に埋もれていく感覚に包まれていた。
全身の力がすっかり抜け、どんどん深く沈みこんでいく度に、体中から飴色のとろっとした液体がじわじわと流れ出て足元に溜まっていく。
モチオがしゃがんで手で液体をすくうと、表面には懐かしい思い出の一部が映像や文字で浮かび上がった。
メハトの中に詰まっているのは、これまで生きてきた記憶だ。
彼は両手でかき集めようとしたが、すくっては零れ落ちてしまうため埒が明かなかった。
凄まじいスピードでごちゃごちゃ駆け巡る自身の記憶に彼は頭を抱えた。
飴色の物体は勢いを弱めることなく増え続けるため、彼は身動きが取れなくなっていた。
(わたし、何をしてたんだろ?
……ニミコに会わなきゃいけなかったんだ。
あれ……?ニミコって友達?どんな人だったっけ……?
思い出そうとしても思い出せない…………)
次第に彼の思考は何かに妨げられ、だんだん考えるのも億劫になってきた。
(必要としてくれてる人がいるなら、もうどうなってもいいかな……)
投げやりになり、その場に寝転んで体を大の字に広げて目を閉じると、横長の不鮮明な影が瞼の裏をかすめた。
(今の何?何でもいいか…………いや、だめだ、こんなんじゃ……!!
思い出さないと…………誰かと約束してんだ。
誰とだっけ……?美須乃……そうだ、ごはん食べに行くって。
わたしにもお土産くれるって。何をくれるんだった……?)
頭をひねっていると、ぼやけていた像が突然“ドン!!”と、きつね色に揚がった細長い食べ物に変化した。
(あれは……!!えーっと……プリプリ食感の美味しい……
エビカツ、じゃない…………そうだ……!!)
「エビフライ!!」
突然目を覚ましたモチオにリルは吃驚していた。
その隙にモチオは、馬乗りになっていたリルの額を目掛けて思い切り頭突きをくらわせ、両手で押し飛ばしベッドから起き上がった。
「っ…………!!」
頭を痛め蹲っているリルに困惑しながらもモチオはベッドから下りた。
身に着けているものが下着1枚だけに気付くと、部屋の片隅にまとめられていた服と鞄と靴を抱え込むようにして部屋から逃げ出した。
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